事故事例の詳細
事故概要
飲食店の店舗北側壁面の高さ約8メートルから約15メートル付近の位置に設置された突出看板(以下「本件看板」という。)の構成部分である箱状の金属製部品(重量が約2.8キログラムのもの。以下「本件部品」という。)が、その下方に当たる歩道(以下「本件歩道」という。)上に落下していた、店舗の副店長はその事実及び強風が吹いていたことを認めたが,何らの措置を講じることなく漫然と放置していたところ,午後1時55分頃に本件歩道を通行中のB(当時21歳)の頭部に本件看板の上部から落下した柱状の金属製部品(重量が25.7キログラム前後のもの。以下「本件支柱」という。)がぶつかって(以下「本件落下事故」という。),同人に全治不能の頸髄損傷等の傷害を負わせた。
この事故の事故パターン
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事故のきっかけ |
事故の過程 |
結果 |
詳細と留意点 |
1 |
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自重・外力による力 |
建物の一部が落ちる |
落下物にあたる |
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事故概要詳細
情報ソース |
裁判判例 |
建物用途 |
店舗・娯楽施設等 |
場所 |
外構・アプローチ |
建築部位 |
その他 |
障害程度 |
重度のケガ |
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判例の詳細
- 責任の所在
- 店舗副店長の刑事責任(業務上過失致死傷)を認めた
- 瑕疵・過失の有無
- 有
(結果予見可能性)
事故が発生した数時間前に、道路上に部品が落下しており、それが本件看板から脱落した構成部分であることを認識し得た以上,本件支柱等の他の部品が更に落下するおそれがあるものと予見することも可能であったと認められる。そして,本件部品が本件看板から脱落していたのであるから,本件看板に変容が生じていたことは明らかであり,十分な調査を遂げていれば,更に本件支柱等の部品が落下する危険性があることを認識することが可能であったというべきである。
(結果回避可能性)
歩行者に対する注意喚起も,本件建物に備え置かれていたカラーコーンやコーンバーを設置することなどにより十分な手当てをすることが可能であったと認められる。本件店舗の副店長は,簡易でそれほどの労力を必要としない措置を執ることにより,本件落下事故のような人の身体の安全に対する危険を容易に回避することができたものと認められる。
判例の解説
- 裁判所の判断
- 裁判所は、概ね以下のように述べて、店舗の副店長の業務上過失傷害罪を認めた原判決の判断を維持した。
1 本件事故当時の本件店舗の副店長は,同店に店長の肩書を持つ者がいなかったため,実質的な店長として同店の業務を統括する職務を担っており,日常業務の一環として本件建物の設備や機器の点検や管理等に関する責任を負う立場にあった。
2 本件部品は,それ自体の外観から直ちに本件看板の構成部分であることが判明するものでない上,本件看板の最上部に設置された本件支柱と「A」と記された文字看板の間に設置された箱型の支柱で本来的に目立つものでなかったから,本件歩道から本件看板を目視しても本件部品が欠けていることに気付きにくいものであった。しかし,本件部品の外観上少なくとも建築構造物の一部を構成する部材であることが容易に想定でき,そのステンレス製板が剥がれたり凹損し,周囲に鉄片や塗膜片が散乱していたことから,本件部品は上方から落下した蓋然性が高かったこと,本件看板のほぼ真下に所在し,その色合いや質感が本件看板の鉄板枠と類似していること,強風が断続的に吹き荒れていた本件当日の天候などすれば,まずもって本件看板の構成部分が落下したことを想定するのが通常の判断であると考えられる。本件建物の窓等から状況を調査すれば,本件看板に部品の脱落した箇所が存在することが認識でき,本件部品の出所を把握することが可能であったと認められるが,実際には、本件歩道からの目視や屋上からの確認等を試みただけで,本件建物の本件看板に近い窓からその状況を確認する方法に思い至らないまま,本件部品が本件看板や本件建物から落下したものでないと軽信して調査を打ち切ったところであって、このことが、本件部品が本件看板から脱落したことを把握できなかった原因であったといわざるを得ない。したがって,本件店舗の副店長が本件部品が本件看板の構成部分であることを認識する可能性があったことは明らかである。
3 本件看板が文字看板や支柱等の複数の部品が組み合わされた構造であることから,本件部品が本件看板から脱落した構成部分であることを認識し得た以上,本件支柱等の他の部品が更に落下するおそれがあるものと予見することも可能であったと認められる。そして,本件部品が本件看板から脱落していたのであるから,本件看板に変容が生じていたことは明らかであり,店舗の副店長が十分な調査を遂げていれば,更に本件支柱等の部品が落下する危険性があることを認識することが可能であったというべきである。
4 歩行者に対する注意喚起も,本件建物に備え置かれていたカラーコーンやコーンバーを設置することなどにより十分な手当てをすることが可能であったと認められる。本件店舗の副店長は,簡易でそれほどの労力を必要としない措置を執ることにより,本件落下事故のような人の身体の安全に対する危険を容易に回避することができたものと認められる。
5 したがって,本件店舗の副店長には本件事故について過失が認められ,原判示の業務上過失傷害罪が成立するというべきである。
- 本判決のポイント
- 事故が生じる以前の具体的な事情のもとで、事前に設備等の異常を認識しえたときには結果発生の予見可能性が認められ、さらに、比較的容易に事故による被害発生の防止のための措置を講ずることができる場合には結果回避可能性が認められ、刑事責任も生じうるとしている点が参考になる。
事件番号・判例時報 |
平成29年(う)第60号 |
裁判年月日 |
平成29年6月29日 |
事件名 |
業務上過失傷害 |
裁判所名・部 |
札幌地裁 |
判示 |
棄却 |
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原審事件番号 |
平成17(ワ)236 |
原審裁判所名 |
札幌地裁 |
原審結果 |
認容 |
被害者 |
通行人(21歳) |
天候等の状況 |
強風が断続的に吹き荒れていた |
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ID:1884[mid:]