本サイトに登録された各種の事故事例から、どのようなことを教訓として学ぶべきなのかについて、
建築計画と法的責任の2つの観点から、それぞれ、吉村英祐大阪工業大学教授と佐藤貴美 弁護士にご寄稿いただきました。
安全とは、人とその共同体への損傷、ならびに人、組織、公共の所有物に損害がないと客観的に判断されること、安心とは組織や人の間で信頼が築かれており、自分が予想していないことは起きない、何かあったとしても受容できると信じている状態である(注1)。すなわち、安心とは個人の主観的な判断に大きく依存するものであり、安全だけで安心は担保されない。
さて、従来、建築の安全といえば地震、台風、洪水、火災(防火・避難)を思い浮かべることが多かった。だが、附属池田小学校事件(2001年6月8日、児童8人が殺傷)、明石花火大会事故(2001年7月21日、高齢者9人・子ども2人の計11人が死亡)、六本木ヒルズ自動回転扉事故(2004年3月26日、6歳男児1人が死亡)などの事件・事故が頻発するようになり、生活環境の安全・安心への社会的関心が今までにない高まりをみせている。
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アメリカの損害保険会社の技師であったハインリッヒは、自社の統計資料を分析した結果、「ハインリッヒの法則」を見いだした(Industrial Accident Prevention-A Scientific Approach、1931年)。ハインリッヒの法則には、「ドミノの法則」(注2)と「1:29:300の法則」の二つがあるが、日常安全の分野では、後者がよく引き合いに出される。 |
![]() 図1 1:29:300の法則 |
| 注 | |
| 1) | 「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」報告書(文1)に示された「安心」と「安全」の定義を参照した。 |
| 2) | 災害は 社会・環境・素質 2.個人的欠陥 3.不安全行為・機械的危険 4.事故 5.傷害 の五つの要素が1.から5.の順に将棋倒しの形で連携し災害が発生するが、このうち3.が要素の中枢であり、これを排除すれば災害は防げる、とするもの。 |
| 3) | 六本木ヒルズでは、2003年4月のオープン以来、自動回転扉での死亡事故が発生するまでに、自動回転扉に挟まれる事故が32件(うち森タワーで22件)発生しており、33件目の事故で死亡者を出してしまった。また、他の建物の自動回転扉でも多くの事故が発生していることが明らかになり、六本木ヒルズを含め、自動回転扉の撤去や使用停止が相次いだ。 |
われわれの生活環境には、日常災害を引き起こす危険なデザインが潜んでいる。このようなデザインが生み出される背景としてまず考えられるのが、設計者の危険予測能力の欠如である。これは、人体寸法・動作領域・運動能力・認知能力・視野・視点の高さ等の人間工学に関する基礎知識や、それぞれについて個人差があることを十分に理解していないこと、一般成人と比べて危機対応能力が低い子ども、高齢者、障害者等への配慮不足などが背景にある。また、人間の行動法則(近道行動など)や行動心理に反するデザイン、うっかりミス・思いこみ・勘違いを誘発するデザインも少なくない。
次に、設計者の関心が見た目の美しさに集中し、ユーザーの立場に立った使いやすさや安全性への配慮が著しくかけていることがあげられる。だが、いくら見た目に美しいデザインでも、いったんそれに起因する事故が発生すると、危険箇所に警告シールを貼る、目立つよう色を塗る、改修・撤去するなどの事後対策が講じられた結果、見苦しくなった例は、枚挙にいとまがない。
建築の安全に対する要求条件が、対立・矛盾する場合がある。その解決には、相互の関係や目的をふまえた総合的な判断が求められる。
バルコニーや屋外避難階段は災害時の重要な避難経路であるが、外部からの侵入経路にもなる。また、病院の病棟部のバルコニーは、患者が発作的に飛び降りるおそれがあるとして、ふだんは出られないように、扉や窓の開閉を制限しているところがある。窓や扉の施錠管理を厳重にすればするほど避難時の解錠が困難になるという矛盾は、ホテルや病院の設計において、しばしば問題になる。
| 高齢者や障害者のために設けた手すりに、子どもが足をかけて墜落する事故が起こっている。ある高齢者施設のバルコニーは、屋内との段差をなくして車いすでも出られるようにし、条例にしたがって二段手すりを取り付けたが、足がかりとなって危ないとの指摘を受け、手すりが使えないように「改善」された。 |
バルコニーの二段手すりが足がかりにならないようにカバーを取り付けて「改善」した例 |
車いすを考慮して歩道のコーナー部の段差を車道に合わせて切り下げると、視覚障害者が歩道と車道の区別がつきにくく、警告用点字ブロックがないと、そのまま車道に出てしまうおそれがあり、また歩道切り下げは、歩道上への違法駐車を誘発する。点字ブロックの凹凸は、車いすの通行に支障をきたす、歩行者がつまずいたり足を滑らしたりすることがある。 |
歩道コーナー部の歩道切り下げは歩道と車道の境界をあいまいにする |
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倉敷にある大原家の勝手口は土塀と完全に同化しており、観光客はほとんど気付いていないであろう。消す対象は扉、窓、壁、柱、階段、手すり、枠、点検口、目地、幅木、スイッチ・コンセント類、照明器具、スピーカ、防災設備機器、溝蓋、文字・サイン、そして建築本体にいたるまで多岐にわたるが、きれいに消すためには、高度なデザインセンスと洗練されたディテールが必要である。 |
消去のデザイン手法には、「同化」、「透明化」、「省略化」があり、目的に応じて使い分けられる。問題は、ユーザーにその存在が知られていなければ、ユーザーの安全が損なわれることである。特に、一刻を争う場合や、瞬間的な判断が迫られる場合に必要なものの存在を消すデザインは、危険要因となりうる。
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防火扉、屋内消火栓、消火器ボックスの扉を周囲の壁と完全に同化させると、緊急時にそれらの存在に気付きにくく、また平常時は扉の前に物を置く行為を誘発する。 |
植栽がとぎれている部分の外壁に避難口の扉がある。 前に自転車等が置かれないよう、緑色のコーンが置いてある |
御影石の壁に同化させた屋内消火栓。文字もグレーで小さく見えにくい。 前に物が置かれないよう、日々の管理が重要 |
周囲にとけ込ませて存在を消そうとするデザインも、使う場所によっては問題が生じる。ステンレス鏡面仕上げの柱に車がぶつかる、シャッターのガイドレールを納めたステンレス仕上げの柱に人がぶつかるなどの事故が、その一例である。 |
ステンレス鏡面仕上げの柱がへこみ、ステンレス製バリカーも曲がっている。車がぶつかったためと思われる | 「柱 注意」と書かれたステンレスの柱。柱が細いこと、周囲に気をとられやすい場所であることも人がぶつかる一因であろう | 明るい屋外では細くて白い柱が特に見えにくくなる。ぶつかり防止のため、目の高さにトラテープが4列に巻かれている |
同じ素材・仕上げ・模様のパターンで仕上げることも、危険要因となる。段鼻が見えない階段、床面と同じ仕上げのボラード(車止め)、池の底と池の縁や周囲と同じ仕上げにしてある水深の非常に浅い池は、それぞれ踏み外す、はまる(踏み入れる)、ぶつかる原因になる。 |
段鼻がわかりにくい階段では思わず立ち止まることがある。弱視の人には斜路に見える | 歩道と池の底が同仕上げで水深が浅いため、池に気付かずに踏み入れやすい |
点字ブロックは、見えすいように黄色にしている場所が多いが、背景の色との関係からは必ずしも黄色が最善とは限らない。また、黄色のラインは周辺の環境になじまない、床のデザインを「破壊」するなどの批判がある(文4)。かといって、完全に床に同化させるとラインが見えにくくなり、またその結果、ライン上に物が置かれると視覚障害者の通行を妨げる。 |
白色の床に埋められた白色の点字ブロックは、つまずく原因にもなる |
白で統一したデザインにも問題がある。ある公共施設では、真っ白の壁に真っ白の箱文字で施設名が書かれてあった。また、ある集合住宅では、白いインテリアに合わせて消火器まで白く塗ってあったが、火災という一刻を争う時に必要な物を目立たせなくてよいのだろうか。 |
白色の壁に書かれた白色の文字は判読が困難 | 白いインテリアにあわせた白い消火器は特注品 |
建築の透明化の潮流は、窓や外壁だけでなく、内壁・床、浴室の扉にまでガラスを使う傾向として現れている。しかし、ガラスは使う部位を間違えると危険であり、使用にあたっては細心の注意が必要である。ガラス壁があるのに壁の向こう側と空間的につながっているように見えるデザイン、近道行動を誘発するデザインは、ぶつかり事故発生の要因となる。 |
子どものぶつかり事故が多いため、ガラス面に「自動扉 危険 危険」と大書きされている | 左から来た人が近道行動でぶつかる。「ガラス注意」の文字と緑色のラインで注意を喚起している |
平成14年に建築基準法施行令第25条が改正され、「階段等における手すりの設置の義務化」が明確に示されたが、改正以降も明らかにこの規定に違反している建築(多くは個人住宅)がメディアに堂々ととりあげられている(注4)。また、違反ではないが、縦桟・横桟の間隔が広い、支柱だけで桟がない階段の手すりや吹き抜けに面した手すりをよく見かける。個人住宅の場合、階段に手すりをつけるか否かは、施主の了解の上での自己責任であり、法律がそこまで介入するのはなじまないとの意見を耳にするが、小さな子どもや高齢者がいる家ではどうか、急勾配やすべりやすい階段、墜落・転落時の落差が大きい階段でもなくてよいのか。手すりは安全だけでなく、安心のためにもあったほうがよいし、安全な手すりをどうデザインするかが、プロの建築技術者やデザイナーの腕のみせどころではないだろうか。
| 注 | |
| 4) | 2005年日本建築学会賞(作品)の受賞作「積層の家」(設計者:大谷弘明氏、設計期間:1997年6月~2002年1月)は、選考委員会が現地審査したときに階段に手すりがついていなかったため、「学会賞を受賞する建築物は法規を満たしている必要がある」ことを設計者に説明し、手すりを後付けしたことで、受賞が決まったという経緯がある(文2)。 |
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アフォーダンスとは、「利用者によって発見される環境の資質、情報(行為の可能性)」(J.J. Gibson)である(文5)。水平面、斜面、横桟、格子、階段は、歩く、上る、座る、横になる、置く、登るなどの、人間のさまざまな行為を“アフォード”する。 人は、水平部分に物を置いたり上ったりする。吹き抜けに面した手すり壁の天端には荷物や飲み物が置かれやすいが、うっかり物を落としたときには、きわめて危険である。その事後対策として、水平面を傾斜させたり丸めたりする事後対策が講じられるが、最近ではあらかじめ危険を予測し、事前対策を講じた事例が見られるようになった。 |
幅のある水平面は物を置くことを“アフォード”する。階段の立ち上がり壁の天端を水平にすると物が置かれて危険。 | エスカレータまわりの手すり壁の天端を傾斜や曲面にしてものが置けないようにしたデザイン(事前対策) | |
| 吹き抜けまわりの手すり壁の天端を手前に傾斜させてある(事前対策) |
人は前方にコーナー部分や障害物がある場合、できるだけ内側を歩こうとするが、障害物の位置・大きさ・形状を見誤ると、身体の一部がそれに接触することがある。
特に、視野外にある足元や頭上付近の出っ張りにつまづきやすい。
景色に目を奪われたり、目標とする場所が前方に見えていたりして、注意がおろそかになりやすい場所に段差や突起物などの障害がある場合。
頭上付近と足元付近の視野外に障害物があってはならない。大人の目線で視野内にある障害物でも、子どもや車椅子利用者にとっては視野死角に入ることがある。
人は前方にコーナー部分や障害物がある場合、できるだけ内側を歩こうとするが、障害物の位置・大きさ・形状を見誤ると、身体の一部がそれに接触することがある。特に、視野外にある足元や頭上付近の出っ張りにつまづきやすい。
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足がかりになる形状
超高層集合住宅の吹抜に面した廊下の手すりに書かれた「のぼらないで!」の注意書き
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ベンチの上の突起物
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床面の凹凸
V字形に凹んだ排水溝の蓋の断面形状は見誤りやすい。また、床置きの注意書きは新たな危険要因にもなる
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低い梁下・開口部上枠
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一段の段差
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わかりにくい段差
華やかなインテリアやディスプレイに目を奪われやすいところに階段を設けるのは危険。転倒事故の発生により階段が斜路に改修され、斜路が二つ並んでしまった(左の斜路はもとからあったもの)
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斜めの柱
柱は垂直であるという思いこみ、グレーで目立たない色が、ぶつかり事故を生む。事後対策として柱にクッション材が巻かれているが、柱や周囲と同色であるため、注意喚起効果は期待できない
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危険なデザインの再生産という悪循環を断ち切るためには、設計者が危険なデザイン事例やそれに起因する事故情報、事故をめぐる裁判事例等を共有し(注5)、デザインに起因する事故発生の可能性を設計段階で予見して、事故の未然防止に努めなければならない。安全を軽視したデザインに起因する事故を起こすたびに規制が強化されることは、設計者が自分で自分の首を絞めることにつながる。建築のデザインに法的規制はなじみにくいが、自動車や家電製品は、厳しい安全基準をクリアしつつ、美しく使いやすく安全なデザインを実現している。建築のデザインにも、安全に関する規制や基規準を逆手にとる逆転の発想により、新しいデザインを生み出す攻めの姿勢が必要である。
ユーザーや社会が要求する安全のレベルは、年々高まる一方である。建築技術者は、それに誠実かつ的確にこたえ、安全性とデザイン性の両立に向けて努力することで、安全・安心な生活環境をデザインしなければならない時代を迎えている。
| 参考文献 | |
| 1) | 安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会:「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」報告書、2004年4月 |
| 2) | 設計者の自邸に「手すり無し」は可能か、日経アーキテクチュア2005年5月30日号、pp.83-87 |
| 3) | 第15回 新 現代建築を考える○と×、GA JAPAN 64、A.D.A. EDITA Tokyo、2003年9月 |
| 4) | 田中直人、岩田三千子:サイン環境のユニバーサルデザイン 計画・設計のための108の視点、学芸出版社、1999年 |
| 5) | 高橋鷹志+チームEBS編:環境行動のデータファイル、彰国社、2003年 |
近時は、建築物内で発生した事故に伴い、その所有者や管理者、設計者、施工者等に対する法的責任の有無等が大きく報道される機会が多い。一見新たな事故に見えるような事案も、過去の裁判事例では、類似の事案において判断が示されているケースも少なくないところである。
本稿では、生活環境、とりわけ建築物内等で発生した事故に伴う過去の裁判事例を概観し、コンプライアンス、リスクマネジメントの参考にしていただければと考える。
土地上の工作物(建物等)に瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)があり、その瑕疵と事故による損害との間に因果関係が認められれば、建物所有者・占有者は当該損害を賠償すべき責任を負う。この責任のことを「工作物責任」という。
工作物責任が問われるのは、第1次的には占有者であり、占有者が過失がないこを証明できたときには、第2次的に所有者が責任を負う。この場合の所有者の責任は無過失責任であり、建物の設置管理等に過失はない(十分に注意を払っていた)場合でも責任を負う。
建物所有者等が、建物等の安全性に配慮すべき義務(安全配慮義務)を怠った過失に基づき損害が生じや場合、一般不法行為として損害を賠償すべき責任を負う。
次の債務不履行責任と異なり、建物所有者等に注意義務違反の過失があることなどは、被害者側で証明しなければならない。
建物所有者等との間に一定の契約関係にある者が事故により損害が生じた場合、当事者間の契約関係で建物所有者等が負っている安全配慮義務に違反したと評価されるとき、その義務違反と損害との間に因果関係が認められれば、損害を賠償すべき責任を負う。
前の一般不法行為責任と異なり、被害者側が建物所有者等に債務不履行があることを証明すれば足り、建物所有者側で過失がないことを証明できなければ、責任が成立する(無過失であることが債務者の免責要件となっている)。
| 原因 | 契約関係 | 過失 | 使用者の責任 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 工作物責任 (民法717条) |
建物等の瑕疵(通常有すべき安全性の欠如) | 不要 |
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| 一般不法行為責任 (民法709条) |
特定の人の行為 | 不要 |
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使用者責任(民法715条)が問われることがある | ||
| 債務不履行責任 (民法415条) |
特定の人の行為 | 必要 |
|
履行補助者の責任として、使用者も責任を問われることがある |
ちなみに、事故が発生した建物等が国、地方公共団体の設置・保存に属する場合には、国家賠償法に基づき国等の責任が問われることになる。
建物等の瑕疵や安全配慮義務違反の内容については、これらの国家賠償法に基づく責任にかかる裁判例等も参考になる。
事故原因につき加害者側の落ち度が大きく、法令で定められた犯罪に該当する場合には、加害者が刑事責任を問われることもありうる。建物等に起因する事故につき問われる可能性のある刑事責任には、次のようなものが考えられる。
| 刑法211条 | 業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処す |
|---|
| 刑法117条の2 | 第116条(失火罪)の行為又は前条第1項(激発物破裂罪)の行為が業務上必要な注意を怠ったことによるとき、又は重大な過失によるときは、3年以下の禁錮又は150万円以下の罰金に処する。 |
|---|
これは、行政刑罰という形で課されることが多く、その場合は、行政責任と刑事責任とが競合していることになる。
建物所有者等が、建物等の管理につき一定の業務を行なうに当たり行政の監督を受ける立場にある場合、事故等がその業務遂行上の問題などに起因する場合において、監督官庁などから当該業務の停止命令や、資格剥奪等の処分がなされることがある。このような、当該業務を所管する行政庁から処分などを受けると言う形で責任を問われる場合が、行政責任の問題である。
被害者が建物等をたまたま利用していた第三者(一般客など)である場合には、契約関係はないため、客に対する安全配慮義務違反等に対する一般不法行為責任が問題となる。
事故の原因が建物等の工作物の瑕疵に基づくものであった場合、所有者は、占有者(テナントなど)に責任がある場合を除き、工作物責任を負う。この場合、前述したように、所有者が工作物の設置・保存に十分に注意していたという「無過失」を主張しても、責任はのがれられない。その意味で、極めて重い責任が課されることになる。
テナント自体に被害が生じた場合は、賃貸借契約上の責任が問題となりうる。また、特別な場合においては、所有者は第三者との間で具体的な安全保持義務(安全配慮義務)を負うとし、その義務違反という形で債務不履行責任が問題となる場合もありうる。
民事責任のほかに、消防法などの規定に基づき行政責任を問われることがある。
また、自らの過失行為により人を死傷させた場合などでは、刑事責任も発生しうる。
被害者が建物等をたまたま利用していた第三者(一般客など)である場合には、契約関係はないため、客に対する安全配慮義務違反等に基づく一般不法行為責任が問題となる。
事故の原因が建物等の工作物の瑕疵に基づくものであった場合、瑕疵がある部分を占有している者は、工作物責任を負う。ただし、所有者の場合と異なり、工作物の設置・保存につき過失がなかったことを証明できれば、責任をのがれることができる。
特別な場合においては、所有者は第三者との間で具体的な安全保持義務(安全配慮義務)を負うとし、その義務違反という形で債務不履行責任が問題となる場合もありうる。
民事責任のほかに、消防法などの規定に基づき行政責任を問われることがある。
また、自らの過失行為により人を死傷させた場合などでは、刑事責任も発生しうる。
所有者等が第三者やテナントに対し工作物責任に基づき損害賠償責任を負担した場合、その所有者等は、他に瑕疵を存在せしめた原因者があるときは、その原因策出者に対し「求償」することができるとされており(民法717条3項)、管理業者が原因作出者である場合には、この規定に基づき所有者等から求償されることがある。ただし、この場合、管理業者等の行為が被害者との関係でも一般不法行為に該当すること(注意義務違反等の過失があること)が必要であるとされている。
建物所有者等と管理業者との間には管理委託契約が存在することが一般的であり、その法的性質は、委任ないしは準委任契約と解されている。
この場合、所有者との関係では、管理委託契約の内容に基づく契約責任か、一般不法行為責任が生じうる。所有者等に何らかの損害が生じた場合(上記のように被害者との間で法的責任を負った場合を含む)、契約上の義務違反行為等があるとして契約責任(損害賠償責任)を追及される場合がある。
対テナントや一般客との関係は、契約関係にないため、一般不法行為責任のみが問題となる。この場合、管理業者として、一般客等に対する安全配慮義務違反の有無が問題になることが多い。
民事責任のほかに、自らの過失行為により人を死傷させた場合などでは、刑事責任も発生しうる。
設計者又は施工者は、建築物等の所有者との間で、委任契約または請負契約関係にある。所有者等に何らかの損害が生じた場合(上記のように被害者との間で法的責任を負った場合を含む)、契約上の義務違反行為等があるとして契約責任(損害賠償責任)を追及される場合がある。
被害者も、直接設計者・施工者に対し、不法行為を根拠に損害賠償請求をすることが可能である。従来は、設計者または施工者は、重大な違法性がない限り、直接に責任をとわれることはないとの下級審判例があったところである。
しかし、平成19年7月6日、最高裁は、「建築物の建築に携わる設計者、施工者は、建物の建築に当たり、契約関係にない居住者等に対する関係でも当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うとするのが相当である」とし、「設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵があり、それにより居住者等の生命、身体又は財産が侵害された場合には、設計・施工者等は、不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り、これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うと言うべきである。」と判断した。
すなわち、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には、被害者との間でも不法行為責任が成立すると解すべきであるとし、違法性が強度である場合に限って不法行為責任が認められるとの見解を否定したところである。
民事責任のほかに、建築士法などの規定に基づき行政責任を問われることがある。また、自らの過失行為により人を死傷させた場合などでは、刑事責任も発生しうる。
建築物等内における事故の場合、建物に瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)があるかどうかが法的責任の有無に大きくかかわってくる。
そして、この瑕疵の有無は、一般的抽象的に捉えるのではなく、具体的・個別的に判断されている。
例えば、最高裁判所も、営造物責任の事例などで、営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,これに基づく占有者・所有者の責任については,その過失の存在を必要としないとしつつ、営造物の設置又は管理の瑕疵があったとみられるかどうかは,当該営造物の構造,用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判断している(国家賠償法2条に関する最高裁判所昭和45年8月20日第一小法廷判決)。
これにより、建物等内での事故に係る裁判事例では、瑕疵の有無の基準、すなわち安全性の欠如の有無の基準は、、建物等の利用目的による属性(例えば住居など特定の者のみの利用が想定されるものか、商業ビルなど不特定多数の者の利用が想定されるものかなど)、利用客の属性(例えば専ら高齢者などが使用するのか、酔客の存在が当然予想されるのかなど)、予想される利用態様(例えばスポーツ施設において、単純なレジャー用か、本格的な練習での利用が前提とされているかなど)によって、異なっている。
建物等内で事故が発生した場合、建物所有者等の責任根拠としてもう一つ挙げられるのが、安全配慮義務違反である。
安全配慮義務違反は、
以上のように、建物等内での事故が発生した場合の責任の有無を左右する「瑕疵」及び「安全配慮義務」のいずれにおいても、求められる安全水準は、その建物等の利用目的や利用態様等により異なる。以下に、利用目的や利用態様ごとに、その大まかな傾向を整理してみよう。
安全性の基準は、通常予測される居住者等の行動を基準として危険防止の設備をすれば足りるのが原則とされる。より具体的には、次のような判断が示されている。
多数の顧客の出入が予想される以上、利用される顧客に対し安全性が確保された設備を用意し、あるいは安全性を確保するように管理して建物設備等を提供すべきであるとして、それを満たさない場合には瑕疵ないし過失ありとされる傾向が強い。
とりわけ、酒等を提供する施設等(ホテル・旅館・居酒屋等)の場合は、一般の事務所用ビルとは異なり、酩酊客の存在なども想定した安全対策を施しておくことが要求される傾向にある。
一般の事務所等とは異なり、様々な疾病や怪我等により日常の行動能力を有さない利用者の存在を前提に、高度の安全性が要求される。ただし、患者が通常は予測できないような行動にでることを想定しての安全性までは要求されない。
利用客の属性(大人専用か、幼児等も入場可能か)、予想される利用態様(例えば飛び込み台を設置し飛び込み練習での利用を前提としているかなど)などの具体的事情に応じて、個別的に安全性を評価する傾向にある。
一般的に、被害者が当該施設を通常の使用方法に従って使用していた場を除き、何らかの落ち度があることが多い。この場合、損害に対する責任の公平な分担の観点から、被害者側の過失を考慮し、「過失相殺」として、賠償額を減額することになる。
一般的に、2割程度の過失相殺が認められる傾向があるが、下記のようなケースではさらに被害者側の過失割合が多くなり、5割以上の過失相殺となる傾向にある。
ただしその一方で、建物等の瑕疵ないし安全配慮義務違反の程度が大きい場合には。公平の観点から、被害者側に多少の過失があったとしても過失相殺をしない場合もある。
幼児の場合には親の監視監督義務が強く要求され、目を放した隙に事故にあった、あるいは一人で行動している幼児を放置していた場合には、当該義務違反として重大な過失として斟酌される。
小学生の段階では、例えば施設設備を本来の目的以外の遊具として使用して事故にあった場合などにおいては、親権者がそのような行為をしないよう注意をし、現実に当該行為をしようとする場合には止めるなどの措置を講じなかったことが、重大な過失として斟酌される。
一方中学生以上であれば、自身も十分に危険を予見して回避する等の事理分別能力があるとして、自身の過失が斟酌され、自ら危険を招くような行動に対しては、重大な過失として斟酌される。
飲酒酩酊により通常の注意能力、運動能力を欠いている状況にあるときに事故にあった場合、飲酒と事故との間に因果関係があれば、重大な過失として斟酌される。
日常的に、あるいは事故に遭遇した行動時において一定の介助が必要とされていた場合においては、当該介助行為がなかったことが被害者側の重大な過失として斟酌される。
事故の発生が大地震や大型台風などの通常予測できない自然力により直接的には事故が発生したとしても、建物等に瑕疵が存在していれば因果関係は否定されない。自然力と瑕疵の存在のそれぞれの損害に対する寄与度を検討し、責任割合が決定される。
過去の裁判例では、自然力と競合した場合、当該自然力の「損害への寄与度」を5割と評価し、損害賠償額を5割減額するという判断がなされる例がある。
被害者側に異常行動があって事故が発生した場合であっても、施設設備の瑕疵等があれば、損害との因果関係は否定されない(法的責任は認められる)。
ただし、被害者側の異常行動は、瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)の有無の判断において、「当該異常行動を前提とした安全性を有することまでは求めることはできない」として瑕疵または過失の存在を否定する要素として検討される。
また、瑕疵の存在が認められた場合でも、上記4の過失相殺の中で相当程度評価される。
裁判所は、事故が発生した場合、法的責任の根拠となる施設設備側の瑕疵又は過失の有無を評価するに当たっては、施設設備側がどのような安全対策を講じているかを検討する。安全対策として評価するのは、主に以下のような項目である。
実際に事故が発生し、その法的責任の有無を問う場合、まずはアの建築関連法規に従っていることが求められ、建築関連法規の基準すら満たしていない場合には、瑕疵ないし過失が認められる。
一方で、建築関連法規に従っているからといって、それだけをもって責任が否定されることはなく、更にウの具体的な取り組み状況を精査した上で責任の有無、瑕疵ないし過失の有無が判断される。その際には、具体の安全対策のレベルとして、イの基準も考慮される。
なお、上記の安全対策の評価において一般的には瑕疵ないし過失はないとされるケースにおいても、過去に同一施設で同種の事故(ヒヤリ・ハットを含む)が発生していた場合には、事故発生の予見可能性ありとされることになり、それに対する十分な対策を講じていないことが瑕疵ないし過失ありとされることがあることにも留意する必要がある。