事故事例の詳細

事故概要

本件は、独立行政法人都市再生機構(以下「UR」という。)の運営管理する団地建物の居住者が、段ボール箱を持ち、自身の居室から階段を利用して1階に降りる途中の2階踊り場で、モルタル床面が割れていたためその割れ目につまずき転倒し(第1事故)負傷したとして、URに対し工作物責任に基づき損害賠償を請求するとともに、さらに同人が、第1事故の6か月後に別の店舗の自動ドアを通過する際自動ドアに衝突して(第2事故)同一箇所を負傷し、または第1事故と第2事故とが競合して後遺障害を負ったとして、自動ドアの製造業者(製造物責任)や店舗経営者(工作物責任)、UR(共同不法行為責任)に対し、損害賠償を請求した事案である。 



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事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 集合住宅の共有部等  
場所 その他場所  
建築部位 階段  
障害程度   
事故にあった方 年齢 57歳 
性別 男性 

判例の詳細

責任の所在
瑕疵・過失の有無
第1事故~踊り場床面:瑕疵あり
・事故現場の2階踊り場のモルタル床面には、はかがれた部分があったのに、これを補修せず、何人も通行可能な状態に置かれていたこと

第2事故~自動ドア:瑕疵・欠陥なし
・自動ドアの業界団体の定めた基準に則った製品や設置方法等であったこと
・年2回の点検を実施し、その際には適宜調整や部品交換も行われていたこと
過失相殺
第1事故 40%
損害賠償の範囲
・第2事故発生後の治療費等については、第1事故に起因する治療費等に相当する部分(全体の70%)のみを因果関係を有する損害と認定

判例の解説

事案の概要
独立行政法人都市再生機構(以下「UR」という。)の運営管理する団地建物の居住者が、段ボール箱を持ち、自身の居室から階段を利用して1階に降りる途中の2階踊り場で、モルタル床面が割れていたためその割れ目につまずき転倒し(第1事故)負傷したとして、URに対し工作物責任に基づき損害賠償を請求するとともに、さらに同人が、第1事故の6か月後に別の店舗の自動ドアを通過する際自動ドアに衝突して(第2事故)同一箇所を負傷し、または第1事故と第2事故とが競合して後遺障害を負ったとして、自動ドアの製造業者(製造物責任)や店舗経営者(工作物責任)、UR(共同不法行為責任)に対し、損害賠償を請求した事案である。
裁判所の判断
1 第1事故の当時、第1事故現場のモルタル床面には、はがれている部分があったこと、事故の2~3日後の段階ではがれた部分は古びて見え、URが点検により発見し補修等することが期待できないほど新しいものだったとは言えないことからすれば、本件団地建物の2階踊り場のモルタル床面には、はがれた部分があったのにこれを補修せず、何人も通行可能な状態においていた点で、URには第1事故に関し本件団地建物の設置または保存に瑕疵があったというべきである。

2 ただし第1事故当時、被害者は、黒に近い色の色付き眼鏡を着用していたこと、段ボール箱を抱えていて足下の視界が一定程度妨げられていたこと、エレベーターを利用することが可能であるにもかかわらず敢えて階段の利用を選択したものであること、他の居住者等は事故に遭遇することなく第1事故現場を通過していたことからすれば、第1事故に係る被害者の過失割合は40%と認めるのが相当である。

3 一方、第2事故について、本件自動ドアの製造会社は、自動ドア業界の団体の定めた基準に則った製品を制作しており、本件自動ドアの設置に際しても、これと異なった設置方法や、これと異なった設備や設定にしたものではないことからすると、製造物責任法に定める「欠陥」は認められず、製造会社は製造物責任を負うものではない。
  また、本件自動ドアを設置していた店舗も、自動ドアの業界団体が定めた基準に則って、起動センサ等の設備を備えた自動ドアが設置されていたこと、店舗経営者は本件自動ドア製造会社が推奨する年2回の点検を実施していたこと、その点検の際には適宜調整や部品交換も行われていたことなどからすれば、店舗経営者の工作物責任も認められない。
  また、これらの者に不法行為はなく、かつ、URとこれらの者との間に関連共同性は認められないことから、第2事故についてURに共同不法行為責任は生じない

4 以上から、本件においては、第1事故に係るURの工作物責任のみが認められ、URは、被害者の第1事故による負傷に係る治療費や休業損害等および第2事故発生後の治療費等のうち第1事故に起因する治療費等に相当する部分(全体の70%)につき、過失相殺後の額を損害賠償すべきである
(ただし、すでにURはこれを上回る金員を治療費等として支払っていたことから、裁判そのものは請求棄却となったところである。)
本判決のポイント
事故現場の床面の瑕疵については、点検等により発見が可能であったにもかかわらず、これを補修せずに何人も通行可能な状態においていたことが設置・保存の瑕疵に該当するとされたこと、自動ドアの瑕疵・欠陥については、設置方法等が当該設備関連の業界団体における基準等に則していたことが責任が否定された大きな要因となったことに留意する必要がある。
事件番号・判例時報 平成23年(ワ)第17181号 
裁判年月日 2013/6/3 
事件名 損害賠償請求事件 
裁判所名・部 東京地方裁判所判決 
判示  
原審事件番号  
原審裁判所名  
原審結果  
被害者  
天候等の状況  
ID:2097[mid:]