事故事例の詳細
事故概要
本件は、ホテルの利用客でが、ホテル内の食堂でビュッフェ形式での朝食を摂る際に、水で濡れていた床面に足を滑らせて転倒し負傷したことから、ホテルの土地建物の所有者に対しては不法行為または工作物責任に基づき、ホテルの運営会社に対しては宿泊契約に基づく安全配慮義務違反等による債務不履行または不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案である。
この事故の事故パターン
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事故のきっかけ |
事故の過程 |
結果 |
詳細と留意点 |
1 |
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濡れ |
すべる |
転倒(床の上で転ぶこと) |
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事故概要詳細
情報ソース |
裁判判例 |
建物用途 |
ホテル・旅館 |
場所 |
その他室内 |
建築部位 |
平坦な床 |
障害程度 |
軽度のケガ |
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判例の詳細
- 責任の所在
- 瑕疵・過失の有無
- 瑕疵なし。
ホテル運営会社の安全配慮義務違反あり
<理由>
・ホテル運営会社は、食堂の床面が飲料水、惣菜の汁等により水濡れの状況が生じ得ることや、水漏れ等の箇所が点在するケースがあることを認識し得ること
・食堂の床材がビニール製で水等が浸透しにくく、利用者がスリッパを用いることから、床面の状況等によっては滑りやすい環境であったこと
・スタッフ等が、水濡れに対する適切な対応をしなかったこと
- 過失相殺
- なし
判例の解説
- 事案の概要
- ホテルの利用客である原告(64歳・男性)が、ホテル内の食堂でビュッフェ形式での朝食を摂る際に、水で濡れていた床面に足を滑らせて転倒し(以下「本件事故」という。)、右膝内傷、半月板損傷等の傷害を被ったとして、ホテルの土地建物の所有者に対しては不法行為または工作物責任に基づき、ホテルの運営会社に対しては宿泊契約に基づく安全配慮義務違反等に基づく債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案である。
裁判では、原告の着衣等は、ホテルから提供された浴衣であり、素足にスリッパを着用していたこと、食堂は、ビュッフェ形式の朝食会場として設営されていたところ、食堂の床は表層透明ビニールで覆われており、同ビニール上の水等が容易に床下に浸透する状況ではなかったこと、事故当時食堂を利用していた客は数名程度であり、ホテルのスタッフも数名所在していたことが認定されている。
- 裁判所の判断
- 1 ホテル運営会社は、本件食堂がビュッフェ形式で時間帯に応じて相当数の宿泊客が利用することが見込まれ、これらの宿泊客がトレーを利用した惣菜等の運搬等の際に床面が飲料水、惣菜の汁等により水濡れの状況が生じ得ることや、料理置き場等が点在していることから水漏れ、汁漏れの箇所も同様に点在するケースもあることを予見・認識し得るものと認められる。また、本件食堂の床面は状況等によっては滑りやすい環境であったこと、本件事故の原因となった水濡れに対し適切な対応がなされなかったことが認められる。したがって、ホテル運営会社は、原告との宿泊契約上の安全配慮義務に違反したものと認められ、不法行為上も同様の過失責任を負うものと認めるのが相当である。
2 一方、本件ホテルの土地建物の所有者は、本件ホテルの管理・運営を担っておらず、また、本件事故は水漏れという一時的な現象に起因するものであって、本件床のビニールが一般に転倒を誘発することをうかがわせる適切な証拠もないことに照らすと、少なくともその設置又は保存に関して瑕疵があるとまではいえない。したがって、ホテルの土地建物の所有者には不法行為及び工作物責任のいずれも認められない。
3 なお、原告は、殊更に転倒しやすい態様で歩行していたとは認め難く、水濡れを容易に発見し得る状況であったことをうかがわせる証拠もないことに照らせば、本件において、原告につき、過失相殺として取り上げるほどの過失があるとまではいえない。
- 本判決のポイント
- 安全配慮義務違反については、事故発生の予見可能性や、床の素材や実際に客が利用する際の利用形態などの具体的事情を踏まえて判断されていること(本件では安全配慮義務違反と認定)、一方、瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)については、当該床の素材の一般的な性質をもとに判断されている(本件では瑕疵なしと認定)ことに留意する必要がある。
事件番号・判例時報 |
令和元年(ワ)第21356号 |
裁判年月日 |
2022/9/29 |
事件名 |
損害賠償請求事件 |
裁判所名・部 |
東京地方裁判所判決 |
判示 |
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原審事件番号 |
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原審裁判所名 |
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原審結果 |
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被害者 |
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天候等の状況 |
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ID:2074[mid:]