事故事例の詳細

事故概要

本件は,飲食店の利用客が,店舗内を歩行中に転倒し,右膝蓋骨骨折の傷害を負ったとして,店舗経営者に対し、店舗の床が水でぬれていたのに放置し,または件店舗の床にワックスを塗布せず滑りやすい状態を放置していた過失があるとして,不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。 



この事故の事故パターン

  事故のきっかけ 事故の過程 結果 詳細と留意点
  濡れ  すべる  転倒(床の上で転ぶこと)  事故パターンの詳細と留意点を見る

事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 店舗・娯楽施設等  
場所 その他室内  
建築部位 平坦な床  
障害程度 重度のケガ  
事故にあった方 年齢 53歳 
性別 女性 

判例の詳細

責任の所在
瑕疵・過失の有無
なし
・店舗の従業員が、事故現場の床が水でぬれていることを認識しながら、拭きとるなどの対応をとらずに放置していたものと認めることはできないこと
・事故現場の床は、東京都マニュアルの定める滑り抵抗係数(C.S.R)を上回る数値を維持していたこと

判例の解説

事案の概要
飲食店(以下「本件店舗」という。)の利用客であった原告が,本件店舗内を歩行中に転倒し(以下「本件事故」という。),右膝蓋骨骨折の傷害を負ったことから,店舗経営者である被告には,本件店舗の床が水でぬれていたのにこれを放置し,または本件店舗の床にワックスを塗布せずに滑りやすい状態を放置していた過失があるとして,店舗経営者に対し,不法行為に基づき損害賠償を請求した事案である。
裁判では、本件事故後,店舗経営者が本件店舗の床に定期的にワックスを塗布することを決めたこと,原告に対し飲食代金の免除,治療費及び交通費の負担並びに10~20万円の示談金の支払を申し入れてたことが認定されている。
裁判所の判断
1 証拠上、本件店舗の従業員が,本件事故現場の床が水でぬれていることを認識しながら拭きとるなどの対応をとらずに放置していたと認めることができないので、仮に本件事故現場の床が水でぬれていたとしても,その対応について店舗経営者である被告に過失があったということはできない。

2 本件事故現場の床は,開店当初の未使用の状態では、硬さ78の滑り片を使用し,水とダストを散布した状態での滑り抵抗係数(C.S.R)は0.59であった。また、本件事故の2年半後の本件事故現場の床の滑り抵抗係数(C.S.R)は,湿潤状態で,使用するゴム片を硬さ80とした場合,0.65であったものと認められる。「東京都福祉のまちづくり条例 施設整備マニュアル」は,高齢者,障害者等の全ての人が安全かつ円滑に施設を利用できるものとするとの基本的考え方の下,履物を履いて動作する床,路面については,滑り抵抗係数(C.S.R)を0.4以上とすることが望ましいと定めていたところ,本件事故現場の床は,この基準値を上回る滑り抵抗係数(C.S.R)を有していたものと認められる。よって、本件事故現場の床が、一般的にみて、特に滑りやすい状態で危険であったと認めることはできない。

3 なお,被告である店舗経営者は、本件事故後に被害者に対し示談金の支払等を申し入れているが,利用客が滑って転倒し負傷するという事故が発生した以上,従前より本件店舗の安全性を向上するため店舗の床の管理体制を見直すことは不自然ではないし,過失の有無を問わず,代金を免除し,後日被害者から申入れのあった治療費及び交通費の負担を受け入れる旨述べることは,利用客に対する配慮として十分あり得ることである。また、訴訟前に紛争を早期解決するため,過失の有無とは無関係に10~20万円程度の示談を申し入れることも何ら不自然ではない。よって,これらの事実をもって,本件店舗の床が滑りやすい状態にあったことを店舗経営者である被告が自認していたと解することはできない。
本判決のポイント
店舗の床の滑り抵抗係数などから、店舗経営者が床が滑りやすい状態を放置していたとはいえないとしたこと、また、事故後に示談交渉がなされたことは過失の有無の判断とは無関係であるとしたことに留意する必要がある。
事件番号・判例時報 平成28年(ワ)第5080号 
裁判年月日 2018/11/27 
事件名 損害賠償請求事件 
裁判所名・部 名古屋地方裁判所判決 
判示  
原審事件番号  
原審裁判所名  
原審結果  
被害者  
天候等の状況  
ID:2090[mid:]