事故事例の詳細

事故概要

本件は、ホテルの宿泊客が,客室内で車椅子を自ら操作してバスルームに移動しようとしたところ,バスルームと客室との間の仕切り部分の傾斜の影響を受けて転倒し,頚髄を損傷するなどしたとして,ホテル運営会社に対し,工作物責任または債務不履行に基づく損害賠償を請求した事案である。 



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事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 ホテル・旅館  
場所 水回り(キッチン・トイレ・風呂)  
建築部位 柱・壁・間仕切り  
障害程度 重度のケガ  
事故にあった方 年齢 男性 
性別  

判例の詳細

責任の所在
瑕疵・過失の有無
瑕疵・安全配慮義務違反ともになし
・バリアフリー法等の関係法令に適合した設備であること
・傾斜と他の部分とが明確に区分されること
・同種の事故の前例がないこと

判例の解説

事案の概要
ホテルの宿泊客(後遺障害第1級の障害を有しており、車椅子にて生活)が,客室内で,車椅子を自ら操作してバスルーム(以下「本件バスルーム」という。)に移動しようとしたところ,本件バスルームと客室との間の仕切り部分の傾斜(以下「本件傾斜」という。)の影響を受けて転倒し,頚髄を損傷するなどしたとして,ホテル運営者に対し,工作物責任又は債務不履行に基づき損害賠償を請求した事案である。
裁判所の判断
1 民法717条1項の「瑕疵」とは、工作物がその種類に応じて通常備えているべき安全性を欠いていることをいうところ、本件傾斜は、車椅子利用者の利用を前提とした車いす使用者用客室に存在したものであるから、車椅子利用者にとって通常備えているべき安全性を欠くかという観点から民法717条1項の「瑕疵」に該当するかが判断される。

2 車いす使用者用客室の車いす使用者用便房・浴室である本件バスルームは、出入口に設けられた本件傾斜が25/80程度という相当な勾配を有するものであるところ、車いす使用者の利用という観点からはより緩やかな勾配とするための解消措置が図られることが望ましいとはいえるものの、本件傾斜はバリアフリー法にいう「高低差がないこと」という基準に不適合であるとまではいえない。また、本件客室の改修事業に際し、ホテルが所在する自治体から、バリアフリー法にいう移動等円滑化基準のうち車いす使用者用客室に関する基準に適合すると判断されて補助金が交付されたものである。よって、本件傾斜は民法717条1項にいう「瑕疵」に該当するとは認められない。

3 ホテルの運営者は、宿泊客である車椅子利用者との間の宿泊契約に基づき、車椅子利用者の安全に配慮すべき義務を負うところ、本件バスルームの出入口に本件傾斜があることはバリアフリー法に定める基準に不適合であるとは認められないこと、本件傾斜とそれ以外の場所とが色彩上明確に区別されていること、本件客室で同種事故の前例があるとは認められないことなどから、宿泊契約に基づき、本件傾斜付近に傾斜の存在を知らせる掲示物を貼ったりチェックイン時に本件傾斜の存在を説明するなどの注意喚起を行うべき法的義務を負っていたとはいえないから、ホテル経営者の債務不履行責任も認められない。
本判決のポイント
事故の原因とされた設備の設置状況が法令に基づいたものであり、過去に類似の事故がなかった場合には、瑕疵(通常有すべき安全性の欠如)や宿泊契約上特段の注意喚起をすべき義務はないとされたことに留意する必要がある。
事件番号・判例時報 令和元年(ワ)第29139号 
裁判年月日 2022/3/3 
事件名 損害賠償請求事件 
裁判所名・部 東京地方裁判所判決 
判示  
原審事件番号  
原審裁判所名  
原審結果  
被害者  
天候等の状況  
ID:2077[mid:]