事故事例の詳細

事故概要

本件は、衣料品販売店の客が、店舗入口付近にある傘用スタンドが置かれている風除室内で滑って転倒し負傷したとして、店舗経営者に対し、工作物責任及び安全配慮義務違反の不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。
なお、本件事故当時、風除室内の床にはマット等は敷かれておらず、外側ドアの屋外側地面には、入店する客の履物の水気や泥を拭うためのノーマッドマットが敷かれており、内側ドアの売り場側の床面にはリースマットが敷かれていた。 



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事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 店舗・娯楽施設等  
場所 出入り口  
建築部位 平坦な床  
障害程度   
事故にあった方 年齢 64~65歳 
性別 女性 

判例の詳細

責任の所在
瑕疵・過失の有無
瑕疵・過失あり
・風除室の床が濡れて滑りやすい状態になっているのを放置していたこと
・床が濡れやすく滑りやすい状態であったことを容易に知り得たにもかかわらず、マットを敷く等の危険防止の措置をとらなかったこと
過失相殺
65%
・被害者側も歩行に際して足元に注意すべきであって、本件事故を防止する第一義的な責任は被害者側にあったといえること

判例の解説

事案の概要
衣料品販売店の客が、店舗入口付近にある傘用スタンドの置かれている風除室内で滑って転倒し負傷したとして、店舗経営者に対し、工作物責任及び安全配慮義務違反に基づく不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。
裁判では、本件事故当時、風除室内の床にはマット等は敷かれておらず、外側ドアの屋外側地面には、入店する客の履物の水気や泥を拭うためのノーマッドマットが敷かれており、内側ドアの売り場側の床面にはリースマットが敷かれていたこと、事故直前には本件店舗前の駐車場は雨で濡れた状態で薄く水たまりができた場所もあり、駐車場から本件店舗入口に向かう買い物客の中には傘をさしている者がいたことなどが認定されている。
裁判所の判断
1 本件事故現場である風除室の床は、本件店舗の他の場所と同様、規格品である床材を用いて施工されたものであり、店舗の床面としては特段変わったところもなく、ありふれたものであるから、床の設置そのものに瑕疵があったとは言えない。

2 しかし、風除室の床面は極めて滑らかに仕上げられており、水で濡れた場合にはその上を歩く買い物客の足が滑り、転倒する危険が発生することは明らかであるにもかかわらず、マット等が敷かれていないことから、買い物客は直にその上を歩かなければならず、本件事故は、正にそのような滑りやすい状態が放置された結果生じたものと言える。したがって、店舗経営者は、風除室の床が濡れて滑りやすい状態になっているのを放置した点において工作物の保存に瑕疵があり、工作物責任を負う。そして、店舗経営者は、床が濡れやすく滑りやすいことは容易に知りうるところであるから、マットを敷く等の危険防止の措置をとらなかった点において過失が認められ、不法行為責任も負う。

3 ただし、被害者側も歩行に際して足元に注意すべきであって、本件事故を防止する第一義的な責任は被害者側にあったといえること、風除室の床が滑らかなものであることや雨天により床が濡れて滑りやすくなっていることは被害者も容易に察知できたことから、被害者の過失割合は65%と認めるのが相当である。
本判決のポイント
店舗等に設置される設備や資材等については、規格品を使用するなど特段変わったものでなければ「設置の瑕疵」は否定される一方で、気象条件などの個別事情のもとで事故発生の危険性が高まる場合には、当該事情が生じているにもかかわらず何らかの危険防止措置を講じなかったときには、「保存の瑕疵」や「過失」が認められるとしていることに留意する必要がある。
また、本判決では、被害者は一般の来店者であり、判決文中にも本件事故の際に被害者が容易に転倒するような歩行態様であったなどの指摘はないにもかかわらず、「本件事故を防止する第一義的な責任は被害者側にあったといえる」などとして、被害者側の過失を5割以上と評価したことも注目される
事件番号・判例時報 平成22年(ワ)第539号 
裁判年月日 2011/11/28 
事件名 損害賠償請求事件 
裁判所名・部 福岡地方裁判所小倉支部判決 
判示  
原審事件番号  
原審裁判所名  
原審結果  
被害者  
天候等の状況  
ID:2099[mid:]