事故事例の詳細

事故概要

病院で調理助手として勤務していた被害者(64歳)が,病院に設置されていた食材運搬用リフト(以下「本件リフト」という。)から落ちた食材を取ろうとして本件リフトの奥にある昇降路内を転落し死亡した。 



この事故の事故パターン

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事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 病院  
場所 その他室内  
建築部位 エレベーター  
障害程度 死亡  
事故にあった方 年齢 64歳 
性別 男性 

判例の詳細

責任の所在
病院経営者の債務不履行責任認容 工作物責任否定
瑕疵・過失の有無
瑕疵あり 過失無
①病院経営者においては,食材業者に対し食材が落ちないよう本件リフトへの載せ方を工夫するよう依頼していたものの,食材業者の便宜を考え,同リフトの搬器に柵等の落下防止措置は講じていなかったとことであり,これらの対応は食材落下に対する措置としては不十分であった。

②柵等の転落防止措置が講じられていない以上,病院経営者は,食材が落ちるかもしれないこと,食材が落ちたときには従業員が食材を探そうとしたり,場合によっては自分で取ろうとしたりすることは予見することが可能であったのであるから、病院院経営者としては,厨房での作業に従事する従業員に対し,これらの危険の存在と、食材が落ちても決して本件リフトに身を乗り出してまでのぞき込もうとしないことを周知徹底させ,併せて食材が落ちたときの対応について指導教育すべき安全配慮上の義務があったところ、当該義務を尽くさなかった。

③一方で、被害者側は具体的な瑕疵状況を主張しておらず、一方で本件リフトの設置が法令に違反していなかったものであることからすれば,本件リフトの設置又は保存に瑕疵があったとはいえない。
過失相殺
4割 (被害者の過失の内容)他の従業員から制止されたにもかかわらず食材を取ろうとして転落したものであること、注意書きプレートが貼付されていたこと 被害者も転落の危険性は十分に認識できたこと

判例の解説

裁判所の判断
裁判所は、概ね以下のように述べて、病院経営者には安全配慮義務違反があるとして、被害者の相続人らの請求を認めた

1 病院経営者の安全配慮義務違反について
厨房の作業に従事する従業員は誰も本件リフトの構造を知っておらず,従業員の中には本件リフトから食材が転落することすら知らなかった者もいたことがうかがわれる。また,本件事故当時,本件リフトから食材が落ちることが年に1回あるか否かという程度であったことからすれば,病院での勤務経験が2年にすぎなかった被害者が本件リフトから食材が転落することを知らなかった可能性も十分に考えられる。
病院経営者においては,食材業者に対し食材が落ちないよう本件リフトへの載せ方を工夫するよう依頼していたものの,食材業者の便宜を考え,同リフトの搬器に柵等の落下防止措置は講じていなかったとことであり,これらの対応は食材落下に対する措置としては不十分であった。また,柵等の転落防止措置が講じられていない以上,病院経営者は,食材が落ちるかもしれないこと,食材が落ちたときには従業員が食材を探そうとしたり,場合によっては自分で取ろうとしたりすることは予見することが可能であったといえる。
したがって、病院経営者としては,厨房での作業に従事する従業員に対し,これらの危険の存在と、食材が落ちても決して本件リフトに身を乗り出してまでのぞき込もうとしないことを周知徹底させ,併せて食材が落ちたときの対応について指導教育すべき安全配慮上の義務があったところ、当該義務を怠った結果本件事故が生じたのであるから、病院経営者は、安全配慮義務違反に基づく責任を負うというべきである。

2 被告の土地工作物所有者責任について
土地工作物責任にいう瑕疵とは,工作物がその種類に応じて通常備えているべき安全性状・設備を欠いていることである。しかし被害者側は具体的な瑕疵状況を主張しておらず、一方で本件リフトの設置が法令に違反していなかったものであることからすれば,本件リフトの設置又は保存に瑕疵があったとはいえない。

3 過失相殺について
被害者は他の従業員から制止されたにもかかわらず食材を取ろうとして転落したものであること,本件リフトには注意書きのプレートが貼付され,人が乗ることの危険性が表示されていたこと,被害者も同リフトに乗り込むこと自体の危険性は十分に認識できたと考えられることなどから、被害者にも過失がある(過失割合4割)。
本判決のポイント
安全配慮義務違反に関し、設備等の具体的な利用の状況などをもとに適切かつ十分な安全対策が講じられていたかがポイントとされていること、一方で、不十分ではあってもある程度の安全対策があれば被害者側の過失として考慮されうるとしていることが参考になる。
事件番号・判例時報 平成20年(ワ)第1354号   
裁判年月日 平成23年12月14日 
事件名 損害賠償請求事件 
裁判所名・部 鹿児島地裁 
判示 棄却 
原審事件番号  
原審裁判所名  
原審結果  
被害者 従業員(64歳男性) 
天候等の状況  
ID:1886[mid:]