事故事例の詳細
事故概要
本件は,保養所の宿泊客が,客室のバルコニーから転落し,左腫骨骨折,左肩打撲擦過傷等の傷害を負ったことから,バルコニーの設置又は保存に瑕疵があるとして,保養所の所有者・占有者に対し、工作物責任に基づき,損害賠償を請求した事案である
この事故の事故パターン
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事故のきっかけ |
事故の過程 |
結果 |
詳細と留意点 |
1 |
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(人の立ち入りが想定される高所) |
手すりなどがなく落ちる |
墜落(ベランダや屋上などの高所から落下すること) |
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事故概要詳細
情報ソース |
裁判判例 |
建物用途 |
ホテル・旅館 |
場所 |
バルコニー・屋上・その他高所 |
建築部位 |
その他 |
障害程度 |
重度のケガ |
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判例の詳細
- 責任の所在
- 瑕疵・過失の有無
- 瑕疵なし
・事故現場のバルコニーの本来の用法は,利用客が,緊急時に避難用として一時的に立ち入るものであるところ、バルコニーの手すり等や広さ等は、その本来の用法に従って使用するに当たっては特段転落の危険を有するものではないこと
・被害者が実際に転落に至った態様での使用についてまで保養所所有者等が予測可能であったとはいえないこと
判例の解説
- 事案の概要
- 保養所の宿泊客が,客室のバルコニー(以下「本件バルコニー」という。)から転落し(以下「本件事故」という。),左腫骨骨折,左肩打撲擦過傷等の傷害を負ったことから,バルコニーの設置又は保存に瑕疵があるとして,保養所の所有者・占有者に対し、工作物責任に基づき,損害賠償を請求した事案である。
裁判では、本件バルコニーの縁には,床から高さ約1.2メートルの位置に手すりがあり,土台から手すりまでの間に,高さ約87センチメートル,幅約1.5メートルの空洞部分が4つ存在する状態であった(以下「本件空洞部分」という。)こと、建築基準法関係法令の規定に適合するとして建築確認を得ていたこと,消防立入検査において本件空洞部分の危険性等について何らの指摘も受けてはいなかっこと、バルコニーの広さも大人で最大12名が一時的に立ち入る場所としても十分な広さがあることが認定されている。
- 裁判所の判断
- 1 土地の工作物の設置又は保存の瑕疵とは,工作物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,上記安全性を欠くか否かの判断は,当該工作物の構造,用法,場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的,個別的に判断すべきである。そして,当該工作物の通常有すべき安全性の有無は,その本来の用法に従った使用を前提とした上で,何らかの危険発生の可能性があるか否かによって決せられるべきものである。
2 本件バルコニーの本来の用法は,当該バルコニーがある客室の利用客が,緊急時に,本件バルコニーに設置された避難はしごを使って2階のバルコニーに降りてさらに避難するために一時的に立ち入るというものであるところ、本件バルコニーの手すり等や広さ等は、上記本来の用法に従って使用するに当たっては,特段転落の危険を有するものではない
3 本件事故は,中瓶2,3本くらいの量のビールを飲み,酒気を帯びていた原告が、本件バルコニーに立ち入り,床面に座っていたところ,本件空洞部分にガラス板があるものと軽信し,安易に,存在しないガラス板に手をついて立ち上がろうとしたために発生したものと認められる。保養所の所有者・占有者としては、緊急時以外にも酔客が本件バルコニーに立ち入ること自体は予測し得たとしても,上記のような態様で使用されることまで予測可能であったとは認められない。したがって,上記のような態様での本件事故を防ぐことができなかったからといって,本件バルコニーが通常有すべき安全性を欠いていたと認めることはできない。
- 本判決のポイント
- 事故現場のバルコニーが、その本来の用法(本件では避難用)に従った使用の場合には特段の危険を有するものではないこと、また、実際の事故の態様が予測可能であったとは言えないことから、バルコニーが通常有すべき安全性を欠いているものとは言えないと判断されていることに留意する必要がある。
事件番号・判例時報 |
平成27年(ワ)第14477号 |
裁判年月日 |
2017/8/28 |
事件名 |
損害賠償請求事件 |
裁判所名・部 |
東京地方裁判所判決 |
判示 |
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原審事件番号 |
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原審裁判所名 |
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原審結果 |
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被害者 |
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天候等の状況 |
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ID:2092[mid:]