事故事例の詳細

事故概要

本件は、ホテルの男性大浴場内で、内風呂の中央部分にある2段の階段(高さ合計約27cm、横の長さ約3m)を降りようとした客が、その階段部分で滑って転倒し負傷したとして、県の観光協会の役員らに対しホテルの安全対策違反などを指摘する書面を送付したことから、ホテル運営会社が、その客に対する損害賠償債務がないことの確認などを求めた事案である。 



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事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 ホテル・旅館  
場所 水回り(キッチン・トイレ・風呂)  
建築部位 階段  
障害程度   
事故にあった方 年齢 49歳 
性別 男性 

判例の詳細

責任の所在
瑕疵・過失の有無
信義則上の安全管理義務違反あり
・事故現場の階段部分に対する注意喚起の表示や手すりの設置がなかったこと
過失相殺
40%
・被害者は温泉通であり、温泉が転倒しやすい所であることを十分認識していたと考えられるこ

判例の解説

事案の概要
ホテルの男性大浴場内で、内風呂の中央部分にある2段の階段(高さ合計約27cm、横の長さ約3m。以下「本件階段部分」という)を下りようとした客(被告)が、本件階段部分で滑って転倒し負傷したとして、県の観光協会の役員らに対しホテルの安全対策違反などを指摘する書面を送付したことなどを受けて、ホテル運営会社(原告)が、被告に対する損害賠償債務が存在しないことの確認などを求めた事案である。
裁判所の判断
1 被告の負傷の状況や供述内容、本件階段部分に用いられている御影石が十和田石よりも滑りやすいことなどから、被告が原告のホテルの男性大浴場内で、本件階段部分を下りようとしたところ滑って転倒し、負傷したことが認められる。

2 本件階段に設置されている御影石は、ジェットバーナー仕上げ等がされており、一般的に浴場に使用されているものであること、ホテルは開業から20年以上経ているが、その程度の期間の経過により直ちに温泉施設の床として通常備えるべき安全性を欠くに至ったとまで言えるかは疑問であること、温泉施設内に階段が設けられていること自体が瑕疵であるとは言えないことなどから、ホテル運営会社側の工作物責任は求められない。

3 しかし本件階段部分の御影石が十和田石よりも滑りやすいことは否定しがたく、床が水分で濡れている状態で素足で歩くと、滑り抵抗値が少なくなる結果、滑ってしまう可能性があり、一旦滑ってしまうと転倒は避けられないものと認められる。また、浴場の利用者は多く、その年齢等もまちまちであることなどから、ホテル運営会社には、法律上の規制がなくても、浴場の利用者に対する信義則に基づく安全管理上の義務として、利用者が本件階段部分で滑って転倒しないよう配慮すべき義務があったというべきである。
ただし、温泉施設の床が滑りやすいことは一般的に認知されているところ、施設側の安全管理義務は、利用者が一定の注意を払うことを前提としたものと理解すべきである。具体的には、転倒への注意喚起の表示、利用者の動線上への手摺の設置など、利用者が注意を払うことと相俟って、トータルとして転倒を防止することができる程度の対策を講ずべき義務があると考えられる。 

4 本件においては、本件階段部分に対する注意喚起の表示や手すりの設置がなかったことから、ホテル運営会社は、信義則に基づく安全管理上の義務を十分に履行していなかったものと評価され、被害者に対する損害賠償債務を負うことになる。ただしその一方で、被害者も、温泉通であり、温泉が転倒しやすい所であることを十分認識していたと考えられることから、被害者の過失割合を4割と認めるのが相当である。
本判決のポイント
安全配慮義務(安全管理義務)の内容としてどの程度の対策を講ずるべきかは、当該施設の利用態様や事故発生の危険性に対する一般の認識の程度などを踏まえて検討されるべきとしている点に留意する必要がある(本判決では、温泉施設につき、当該施設の床が滑りやすいことは一般的に認知されていることであり、施設側の安全確認義務は利用者が一定の注意を払うことを前提としたものと理解すべきであるとしている)。
また、本件のように、事故に対する法的責任がないことを明らかにすることを目的として、施設等の管理者等の側から、「債務不存在確認請求」という形で訴訟を提起することが可能であること、ただし当該訴訟では、管理者等側の責任(損害賠償債務の存在)が認められる可能性もあることに留意されたい
事件番号・判例時報 平成22年(ワ)第101号 
裁判年月日 2011/3/4 
事件名 債務不存在確認等請求事件 
裁判所名・部 盛岡地方裁判所判決 
判示  
原審事件番号  
原審裁判所名  
原審結果  
被害者  
天候等の状況  
ID:2100[mid:]