事故事例の詳細
事故概要
工場経営者で建物所有者が、工場内に設置していた型枠、製品等を二階から一階へ降ろすための荷物用エレベーターにおいて、従業員がエレベーターのワイヤロープ切断の事故に遇い、負傷した。
この事故の事故パターン
|
事故のきっかけ |
事故の過程 |
詳細と留意点 |
1 |
|
かごごと落ちる |
墜落 |
|
事故概要詳細
情報ソース |
裁判判例 |
建物用途 |
工場・倉庫等 |
場所 |
外構・アプローチ その他場所 |
建築部位 |
エレベーター |
障害程度 |
中度のケガ |
|
|
判例の詳細
- 責任の所在
- 工場経営者(工作物所有者)の工作物責任とエレベーター製造設置業者の不法行為責任(求償責任)が認められた。
- 瑕疵・過失の有無
- 瑕疵・過失あり
(理由)
工作物所有者~瑕疵あり
・人が乗り込むことが予想されたのであるから、人が乗り込まないような構造にすべきであり、仮に人が乗り込むのであれば、これを前提とした安全設備を整える必要があったところ、当該構造・設備が採られていないこと
・1年半の間1度も保守点検をしていないこと
製造設置業者~過失あり
・設置に当たり、積込みの際に人が乗り込まなくてもよいような構造にするように努力をしたとは認められないこと、
・引渡時当に十分な安全指導などをしていないこと
・ほかに事故防止のための適切な措置を採ったとは認められないこと
- 過失相殺
- なし
- 損害賠償の範囲
- 製造設置業者については、その損害への寄与度は3割であるとし、求償額は、損害賠償額の3割とした。
判例の解説
- 事案の概要
- 工場経営者で建物所有者が、自己が経営していた工場内に設置していた型枠、製品等を二階から一階へ降ろすための荷物用エレベーターにおいて、従業員がエレベーターのワイヤロープ切断の事故に遇い、負傷したことから、従業員(被害者)が建物所有者に対し工作物責任に基づく損害賠償をした。そこで、建物所有者が、当該エレベーターの設計・製造及び設置工事を請け負わせたエレベーター会社に対し、被害者に対し支払った損害賠償の求償を求めた事案である。
- 裁判所の判断
- 1 本件事故につき、本件エレベーターの積載重量は二五〇キログラム未満であり、ワイヤーロープの太さなどにつき行政法規違反はないが、本件エレベーターについては、型枠等を積載する際に人が乗り込むことが予想されたのであるから、人が乗り込まないような構造にすべきであり、仮に人が乗り込むのであれば、これを前提とした安全設備を整える必要があったというべきである。ところが、現に荷物積載の際に人が乗り込むような使用方法がされており、工場経営者はこれを知っていたのに、何ら構造や落下防止装置の改善はなされず、かつ、設置以来本件事故に至るまでの1年半の間に1度も保守点検がされなかったのであるから、本件エレベーターは、その設置、管理について瑕疵があったというべきである。
2 民法717条3項による求償責任が生じるためには、被求償者の行為が被害者に対し一般の不法行為となることを必要とする。
機械設備の設置工事を設計を含めて請け負った請負人は、危険性のないものを設計すべきであり、注文者の意向に沿えば危険を生じる場合には、その危険について注文者に進言し、右危険性を除去するように努め、事故の発生を防止すべき注意義務があるというべきで、注文者の意向に沿い、又は注文者の了解を得て、注文どおりに完成させたというたけでは、その危険から生じた事故により被害を受けた者に対する不法行為責任を免れない。
本件では、本件エレベーターは、荷物の積込みに人が乗り込むことが容易に予想できる構造であり、人が乗り込むものとすれば危険性を有するものであったが、その設置に当たり、積込みの際に人が乗り込まなくてもよいような構造にするように努力をしたとは認められないこと、引渡に際し十分な安全指導などをしていないこと、他に、事故防止のための適切な措置を採ったとは認められないことからすれば、製造業者には本件エレベーターの瑕疵について責任のあるものとして、求償義務を負担する。
3 ただし、工場経営者においても、ワイヤロープは外から見える構造になっており、その点検は容易であると認められるから、一、二か月に一度でも保守点検が行われておれば、その損傷は容易に発見でき、これを取り換える等の整備をすることによって落下事故は避けれたのであるから、工場経営者側の責任も重大である(なお、製造業者との間で保守点検契約がなされていない以上、製造業者に保守点検義務を認めることはできないとの判断も示している)。そして、工場経営者と製造業者との損害賠償の分担割合はその責任の度合いによるべきとし、工場経営者側の責任7割、製造業者側の責任3割と認定して、求償額を被害者への損害賠償額の3割に減額した。
- 本判決のポイント
- 民法717条3項による求償責任が生じるためには、被求償者の行為が被害者に対し一般の不法行為となることを必要とするとしている点や、機械設備の設置工事を設計を含めて請け負った請負人は、危険性のないものを設計すべきであり、注文者の意向に沿えば危険を生じる場合には、その危険について注文者に進言し、右危険性を除去するように努め、事故の発生を防止すべき注意義務があるとしている点が参考になる。
事件番号・判例時報 |
平成3年(ネ)第158号 |
裁判年月日 |
平成5年4月14日 |
事件名 |
求償債権請求控訴事件 |
裁判所名・部 |
大阪高等裁判所 |
判示 |
|
|
原審事件番号 |
|
原審裁判所名 |
|
原審結果 |
|
被害者 |
|
天候等の状況 |
|
|
ID:1490[mid:]