事故事例の詳細
事故概要
サマーフェスティバルで、会場内に飲食店を設けるための大型テントを設営したところ、強風により大型テント(縦横ともに約10m、頂部高さ約5m)が飛ばされ、大型テント付近にいた者も飛ばされて、右上腕離断の傷害を負い、死亡した。
この事故の事故パターン
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事故のきっかけ |
事故の過程 |
結果 |
詳細と留意点 |
1 |
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物が固定されていない |
倒れてきたものにぶつかる |
ぶつかり |
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事故概要詳細
情報ソース |
裁判判例 |
建物用途 |
その他 |
場所 |
その他場所 |
建築部位 |
その他 |
障害程度 |
死亡 |
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判例の詳細
- 責任の所在
- イベント実行委員会・市の工作物責任・不法行為責任(安全配慮義務違反)否定
- 瑕疵・過失の有無
- 瑕疵・過失いずれも無
① テントの設置について、風速20m/sで飛散しないことを定める法令上の規定はないし、テントの設営を営む業者の団体が、テントが飛散しない風速の数値を規定しているなどの業界団体の自主基準規定も存在せず、実際にも、テントを設営するときに設営業者が一定の風速の数値で飛散しないような構造でテントを設置しているような実例もうかがえないことから、風速20m/sで飛散しないようにテントを設営しなければ設置に瑕疵があるなどとはいえない。
② 風速20m/s程度の風は、七月に事故があった市において観測された過去の最大瞬間風速に匹敵するものであり、通常吹く程度の風とはいえないから、この風速でも飛散しないように設置を要するものとはいえない。
③ 実際のテント設営は、ほかの設営でも行われている通常の方法であり、これまでの設営方法と同じやり方をしたというのであるが、そのような設営の方法でこれまで飛散等の不具合が生じたことがなかった上に、設営方法に不備があったこともうかがえない。
④ 気象庁が気象情報や注意報を発表しているとしても、そのことから直ちに、竜巻などの突風に備えて安全対策を講じるべき法律上の義務を負うものとはいえず、委員会がこれらの気象情報等に基づいて、例えば本件テントの固定を補強したり、これを撤去しなかったからといって、または来場者に本件テントを利用しないように指示をしなかったからといって、来場者の安全確保を怠ったということはできない。
⑤ 本件フェスティバル会場に黒雲が近づいてくるのがわかったとしても、それだけで大型テントを飛ばすくらいの突風が発生するなどと予測することは困難であるから、この時点で直ちに避難誘導措置をとらなければならなかったなどとはいえないし、本件では雨が強まるとほぼ同時に突然の強風が発生したといえるから、風が強くなったとして避難誘導措置をとることも困難であった。
- 損害賠償の範囲
- 委員会が避難誘導等をとらなければならないといった状況にはないなど、安全配慮義務を怠ったとはいえない
判例の解説
- 裁判所の判断
- 裁判所は、概ね以下のように述べて、工作物責任及び債務不履行責任を否定した。
1 本件テント設置または保存、管理の瑕疵
(1)土地工作物該当性について
本件テントは、縦約10m、奥行き約10m、高さ頂部約5mの四つのテントを 連結したものであり、作業員数名が鉄骨を組み立てて機械でネジ締めし、クレーンでつり上げたテント生地を鉄骨に固定して設置され、その重量は約4750kgに及び、350kgの重石14個等が鎖で繋がれてその重さは合計5300kgあり、これらの総重量が約10.05tにのぼるものと認められる。そうすると、本件テントは、一旦設置されると移動させることが極めて困難であることから、本件テントは土地工作物に該当する。
(2)本件テント設置または保存、管理の瑕疵について
① 土地工作物や営造物の設置または保存、管理の瑕疵とは、工作物ないし営造物が、
その客観的性状または機能的観点から、通常予想される危険に対して備えているべき安全性を欠いていることをいい、瑕疵の有無は、当該物の構造、用途、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して個別具体的に判断すべきである。
② テントの設置について、風速20m/sで飛散しないことを定める法令上の規定
はないし、テントの設営を営む業者の団体が、テントが飛散しない風速の数値を規定しているなどの業界団体の自主基準規定も存在せず、実際にも、テントを設営するときに設営業者が一定の風速の数値で飛散しないような構造でテントを設置しているような実例もうかがえないことから、風速20m/sで飛散しないようにテントを設営しなければ設置に瑕疵があるなどとはいえない。
③ 風速20m/s程度の風は、七月に事故があった市において観測された過去の最大瞬間風速に匹敵するものであり、通常吹く程度の風とはいえないから、この風速でも飛散しないように設置を要するものとはいえない。
④ 実際のテント設営は、ほかの設営でも行われている通常の方法であり、これまでの設営方法と同じやり方をしたというのであるが、そのような設営の方法でこれまで飛散等の不具合が生じたことがなかった上に、設営方法に不備があったこともうかがえない。
⑤ したがって、本件テントには安全性の欠如があったとはいえず、その設置または保存に瑕疵があったとは認められない。
2 安全配慮義務違反の有無について
① 気象台は、事故当日、気象概況に照らし、竜巻などの激しい突風に注意するように
発表していたものの、その日時や地点の発生予測が困難であって、いつ、どの地点で発生するかまでを予測して注意を呼びかけるものではないし、一般的にそのように受け止められているものでもない。そうすると、気象庁が気象情報や注意報を発表しているとしても、そのことから直ちに、竜巻などの突風に備えて、安全対策を講じるべき法律上の義務を負うものとはいえないというべきである。したがって、委員会がこれらの気象情報等に基づいて、例えば本件テントの固定を補強したり、これを撤去しなかったからといって、または来場者に本件テントを利用しないように指示をしなかったからといって、来場者への安全確保を怠ったということはできない。
② 本件フェスティバル会場に黒雲が近づいてくるのがわかったとしても、来場者が雨を予測したにすぎなかったとおり、それだけで大型テントを飛ばすくらいの突風が発生するなどと予測することは困難である。したがって、この時点で、直ちに避難誘導措置をとらなければならなかったなどとはいえないし、本件では雨が強まるとほぼ同時に、突然の強風が発生したといえるから、風が強くなったとして避難誘導措置をとることは困難であったというべきである。 したがって、委員会が安全配慮義務を怠ったとはいえない。
③ 以上によれば、被告委員会は、不法行為及び債務不履行に基づく責任を負わないし、被告も国家賠償法1条及び不法行為に基づく責任を負わない。
- 本判決のポイント
- テントのような一時的に設置されるものも土地上の工作物とされること、実際の瑕疵の有無や安全配慮義務違反の有無に関し、具体的な状況(本事案では天候)につき、判断の拠り所(本事案では気象情報の取扱)を精査して判断していることが参考になる。
事件番号・判例時報 |
平成24年(ワ)第221号
2269号75頁 |
裁判年月日 |
平成27年2月19日 |
事件名 |
損害賠償請求事件 |
裁判所名・部 |
名古屋地裁 |
判示 |
棄却 |
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原審事件番号 |
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原審裁判所名 |
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原審結果 |
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被害者 |
一般来場者(42歳男性) |
天候等の状況 |
突風(風速15メートル超) |
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ID:1885[mid:]