事故事例の詳細

事故概要

カラオケ店で客3人が死亡,5人が負傷した火災で,重傷を負った女子大学生が防火上の不備を理由に,市や店側に損害賠償を求めた。
本件火災発生当時,本件建物の2階の窓は,内側からベニヤ板や石膏ボードが貼り付けられており,本件建物の2階からの脱出口は,内階段のみであった。本件建物の出入口は,1階部分に3か所あったが,営業時間中,施錠されておらず使用できるのは,受付カウンター正面の出入口のみであった。また,本件建物には,避難はしご等の避難器具や,非常ベル,非常電源,誘導灯は設置されていなかった。
本件カラオケ店では,本件火災発生までに,被告Eにより,消火器の使用方法や,火災が発生した場合の避難誘導についての指導,訓練が実施されたことはなかった" 



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事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 店舗・娯楽施設等  
場所 その他室内  
建築部位 その他  
障害程度   
事故にあった方 年齢 中学生 
性別 女性 

判例の詳細

責任の所在
建物所有者・店舗経営者の工作物責任認める 店舗経営者の不法行為責任認める 市の責任は否定
瑕疵・過失の有無
瑕疵あり 所有者・占有者の過失あり 市の過失なし

本件火災発生当時,本件建物の2階の窓は,内側からベニヤ板や石膏ボードが貼り付けられており,本件建物の2階からの脱出口は,内階段のみであった。本件建物の出入口は,1階部分に3か所あったが,営業時間中,施錠されておらず使用できるのは,受付カウンター正面の出入口のみであった。また,本件建物には,避難はしご等の避難器具や,非常ベル,非常電源,誘導灯は設置されていなかった。また本件カラオケ店では,本件火災発生までに,被告Eにより,消火器の使用方法や,火災が発生した場合の避難誘導についての指導,訓練が実施されたことはなかった。一方,市は,本件建物について消防法令や建築基準法令違反があることを認識し得たとは言えない。
過失相殺
なし

判例の解説

裁判所の判断
裁判所は、概ね以下のように述べて、賃貸人兼所有者の責任を認め、市の責任は認めなかった。
(※アルバイト店員及び賃借人(店舗経営者)は自ら請求を認めたので、具体的な判断はなし)

1 本件建物の法令違反
① 消防法違反について
本件建物は,平成元年12月ころから,カラオケ店として使用されるようになった  のであるから,同時点で,本件建物には,消火器等の消火器具,非常ベル,自動式サイレン又は放送設備,誘導標識を,本件建物2階には,避難器具を設置した開口部,避難口誘導灯及び通路誘導灯を,それぞれ設置しなければならなかった。また,本件建物2階の収容人数に照らせば,防火管理者を選任して届けなければならず,消防計画の作成等の措置を講じなければならないところであった。しかし本件建物には,平成元年12月ころカラオケ店としての使用が開始されて以降,本件火災発生時まで,以上の対応はとられていなかった。

② 建築基準法令関係
本件建物は,非常用の照明装置を設けなければならならず、用途変更申請を行わなければならなかったところ、本件建物には,平成元年12月ころカラオケ店としての使用が開始されて以降,本件火災発生時まで,非常用の照明装置は設置されず,また,用途変更の申請もされなかった。

2 土地の工作物等の占有者の責任
① 本件建物の瑕疵について
本件火災発生時,本件建物には消防法17条の設置対象物(消火器具,放送設備,誘導標識,本件建物2階における避難器具を設置した開口部,避難口誘導灯及び通路誘導灯等)が設置されておらず,また,非常用の照明装置も設置されていなかったのであるから,不特定多数の者が来店するカラオケ店として本来備えておくべき安全設備を欠いていたものというべきであり,土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があったと認められる。

② 賃貸人兼所有者が民法717条の「占有者」の責任を負うか否かについて
民法717条1項にいう「占有者」には,工作物を直接占有する者のみならず, 間接占有者も含むと解すべきである(最高裁昭和31年12月18日判例・)が、間接占有者が被害者に対する関係で土地工作物から生ずる危険を支配,管理し,損害の発生を防止し得る地位になかったときには,民法717条1項の責任を負わないと解すべきである。
本件では,本件建物の賃貸人は間接占有者に該当するところ,本件建物の保全,防火,防災その他本件建物の管理上の必要のあるときは,予め賃借人にその旨通知してから本件建物内に立ち入り,これを点検し,適宜その処置を講ずることができることから,本件建物の防火防災上の管理権限があったということができる。
そして,賃貸人は,賃借人が本件建物においてカラオケ店を始めたことを知っていたことなどから,用途変更の届出の有無並びに消防用設備等の設置の状況について確認することは容易であったというべきであり,本件瑕疵を認識する機会は少なからずあったということができる。したがって、賃貸人兼所有者は,本件建物の間接占有者として,民法717条1項により,本件火災による原告の損害を賠償すべき義務を負う。
(なお、民法717条の責任は,危険なものを占有又は所有する者はその結果たる損害について当然に責任を負うべきであるとするいわゆる危険責任に立脚するものであることにかんがみれば,工作物である本件建物の設置,保存の瑕疵から損害が発生した場合については,失火責任法の適用はない。)
  
3 市の責任の有無・違法性
市が,平成3年の新建物建築確認申請時や平成14年の消防法改正時に,本件建物について,消防法令違反及び建築基準法令違反の事実があったことを認識し又は認識し得たと認めることはできず,したがって,同時点で市が,本件カラオケ店利用者の生命身体が危険に晒されていることを予見し得たとは認められない。よって同時点で市が,本件建物を査察の対象として選択して査察・調査権限を行使すべきであったともいえず,市の権限不行使が違法であるとは認められないから,国家賠償法1条1項に基づく責任は認められない。
本判決のポイント
貸に供している物件に関しても、建物所有者兼賃貸人が防火上の一定の措置を講じる立場にあるときは、間接占有者として工作物責任を負う場合があるとしていること、行政は法令違反の認識可能性がないときは責任を負わないとしていることが参考となる。
事件番号・判例時報 平成22年(ワ)17号 
裁判年月日 平成25年4月26日 
事件名 損害賠償請求事件 
裁判所名・部 神戸地裁 
判示 一部認容 
原審事件番号  
原審裁判所名  
原審結果  
被害者 客(事故同時中学生) 
天候等の状況  
ID:1888[mid:]