事故事例の詳細

事故概要

国立大学の学生が、同大学の校舎4階ひさしにおいてグランドで行われていた野球を見ていたところ、手に持っていたスケッチブックを足元の床に落としたため、その落としたスケッチブックを拾おうとしてしゃがみ込んだとき、身体のバランスを崩し、手すりの隙間から約10メートル下の地上に転落して受傷した。 



この事故の事故パターン

  事故のきっかけ 事故の過程 結果 詳細と留意点
  (人の立ち入りが想定されない高所)  手すりなどがなく落ちる  墜落(ベランダや屋上などの高所から落下すること)  事故パターンの詳細と留意点を見る

事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 学校  
場所 バルコニー・屋上・その他高所  
建築部位 手すり その他  
障害程度 中度のケガ  
事故にあった方 年齢 20歳 
性別  

判例の詳細

責任の所在
学校の設置管理者である国に営造物責任を認めた。
瑕疵・過失の有無
瑕疵有り
(理由)
・廊下から本件ひさし部分に至るガラス引き戸や本件ひさし部分の構造は、一般に見られるベランダへの出入り口及びべランダと同様のものであること
・本件建物を利用するであろう教職員及び学生が、本件ひさし部分に出てベランダとして利用することを物理的及び心理的に阻害するような状況は認められないこと
・本件事故当時、学生が本件ひさし部分に出ることを禁止するような措置も何らとられていないこと
・本件ひさし部分の本件手すり下部の開口部は、床面からの高さ71センチメートル幅・141センチメートルと極めて大きく、本件手すり及びその支柱等の存在だけでは、転落防止の機能として不十分であったといわざるを得ないこと
過失相殺
5割
 当時20歳で、十分な判断力、注意力を有していたと考えられる被害者においても、本件ひさし部分の本件手すり下の開口部の状況を見て、その危険を察知し、自らの落下防止のために注意を払うべきであった
損害賠償の範囲

判例の解説

事案の概要
本件は、国立大学の学生が、同大学の校舎4階ひさしにおいてグランドで行われていた野球を見ていたところ、手に持っていたスケッチブックを足元の床に落としたため、その落としたスケッチブックを拾おうとしてしゃがみ込んだとき、身体のバランスを崩し、手すりの隙間から約10メートル下の地上に転落して受傷したことから、この事故は、右建物の構造又は管理に瑕疵があったために生じたものであるとして、国に対し、国家賠償法2条1項に基づき損害倍賞を請求した事案である。
裁判所の判断
1 国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いて他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいい、このような瑕疵の存在については、当該営造物の構造、用法、場所的利益、利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきものである。

2 本件ひさし部分は、以下の点で、通常予想される危険の発生を防止するに足りると認められる状態になかったといわざるを得ず、その設置又は管理に瑕疵があったものと認められる。
①設計者は、4階ひさしは、建築物としての美観を保つとともに、窓や壁の清掃のために利用することを考えて設けられたものであったが、廊下から本件ひさし部分に至るガラス引き戸や本件ひさし部分の構造は、一般に見られるベランダへの出入り口及びべランダと同様のものであって、本件建物を利用するであろう教職員及び学生が、本件ひさし部分に出てベランダとして利用することを物理的及び心理的に阻害するような状況は認められないこと
②本件事故当時、学生が本件ひさし部分に出ることを禁止するような措置も何らとられていないこと
③本件ひさし部分の本件手すり下部の開口部は、床面からの高さ71センチメートル幅・141センチメートルと極めて大きく、本件のように、床にあるものを拾おうとするなどしてしゃがみ込んだ際に身体の均衡を失すると、右開口部から転落するおそれが十分にあるもので、本件手すり及びその支柱等の存在だけでは、転落防止の機能として不十分であったといわざるを得ないこと

3 しかしながら、当時20歳で、十分な判断力、注意力を有していたと考えられる被害者においても、本件ひさし部分の本件手すり下の開口部の状況を見て、その危険を察知し、自らの落下防止のために注意を払うべきであったことから、原告側にも過失がある(過失割合5割)。
本判決のポイント
 建物としての美観等を保つために設計された設備等であっても、利用者が別の用途に利用することが予見されうる場合には当該利用態様に則した安全対策等がとられていない場合には設置管理の瑕疵にあたるとしている点に注意する必要がある。
事件番号・判例時報 平成10年(ワ)第19749号 
裁判年月日 平成11年6月29日 
事件名 損害賠償請求事件 
裁判所名・部 東京地方裁判所 
判示  
原審事件番号  
原審裁判所名  
原審結果  
被害者  
天候等の状況  
ID:1487[mid:]