事故事例の詳細

事故概要

区立の小学校(以下「本件小学校」という。)に通っていた被害者(事故当時小学校5年生)が、授業の休憩時間中に、本件小学校の多目的ホール(床材が木製フローリング部分)又はエントランスホール(建物の一階の下駄箱が設置された昇降口と本件多目的ホールとの間にあるホール。以下「本件エントランスホール」という。床の材質はビニルシート)で、同級生の少年に投げ飛ばされ、床に落下したために傷害を負った。 



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事故概要詳細

情報ソース 裁判判例 
建物用途 学校  
場所 廊下・ホール  
建築部位 平坦な床  
障害程度   
事故にあった方 年齢 小学校5年生 
性別  

判例の詳細

責任の所在
区の責任(営造物責任~国賠法2条、安全配慮義務違反~国賠法1条)が否定
瑕疵・過失の有無
瑕疵、過失いずれも無

①本件店舗の床材は「コーデラ」という材質になっているところ、同材質の滑り抵抗値は乾燥時に0.83、水濡れ時に0.54、水+ダストの状態で0.4であった。

②事故当日は冬であり、また降雨の有無はともかく雨天気味で湿気は相当にあったと考えられ、床に水分があった際に乾燥するまで時間がかかると考えられる状況にあったこと等から、大量の水が転倒現場付近にばらまかれるような事象が起きた形跡は特段ない。

③開店時間前後において、本件店舗付近や被害者宅から本件店舗までの道のりにおいて強い雨が降っていたと考えることはできず、被害者の衣服等から多量の水が床に落ちたと考えられることはできず、転倒当時の床の状況は、多少水分を帯びていた状況ではあったとしても、床の上に水が浮いているような状況であったとは考えられない。

④このような床の状況を前提とすると、元々本件店舗の床材は転倒事故を起こしやすいようなものではなく、また転倒現場付近の床は若干水分を含んでいたという程度の状況にとどまるものであったと考えられ、滑り抵抗が常に転倒の危険を生じるほどに低下していたり、床の他の部分と極端な滑り抵抗の差が生じるような状況にあったとは認められない。

⑤本件店舗において他に転倒事故が発生していた形跡が全くないことにも照らすと、転倒現場付近の床が一般的に転倒を誘発するような危険な状況にあったとはいえない。
損害賠償の範囲
本件事故は、本件ホールにおいて通常想定される行動によって生じた結果とはいえず、仮に、本件ホールの床の材質が、より運動の場に適した、弾力性、衝撃吸収性の高いものであったとしても、本件事故による原告の傷害の結果を避け得たかどうかは不明であるから、本件ホールの床の材質と本件事故による被害者の傷害結果の発生との間には、因果関係を認めることもできない。また、本件ホールの床の材質を変更しなかったことと本件事故による原告の傷害結果の発生との間に因果関係があると認めることもできない。

判例の解説

裁判所の判断
裁判所は、概ね以下のように述べて、原告の請求を棄却した。
1 国家賠償法2条1項に基づく責任(営造物責任)について
① 国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき    安全性を欠いていることをいい、営造物の設置又は管理に瑕疵があったとみられるかどうかは、当該営造物の構造、用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的個別的に判断すべきものである。

② 本件エントランスホールの使用実態を考慮に入れても、その床は当該場所にふさわしい材質が用いられており、本件多目的ホールの床についても特に不適切な材質を用いたとは認められない。

③ なお、本件ホールにおいては一定数の事故が生じていたことが認められるが、これらは遊戯中に通常起こり得る受傷などであって、これらの事故による負傷の程度は、本件ホールの床の影響で通常想定される負傷の程度より大きいことを示す証拠はなく、本件ホールの床が他の床と比べて安全性の面で有意な差があることなどは認められない。

④ したがって本件ホールの床が通常有すべき安全性を欠いているとは認められず、国家賠償法2条1項にいう設置又は管理の瑕疵があったと認めることはできない。

⑤ また、本件事故は、本件ホールにおいて通常想定される行動によって生じた結果とはいえず、仮に、本件ホールの床の材質が、より運動の場に適した、弾力性、衝撃吸収性の高いものであったとしても、本件事故による原告の傷害の結果を避け得たかどうかは不明であるから、本件ホールの床の材質と本件事故による被害者の傷害結果の発生との間には、因果関係を認めることもできない。

⑥ したがって、国家賠償法2条2項に基づく責任は認められない。
 
 
2 国家賠償法1条1項に基づく責任又は安全配慮義務違反による債務不履行責任
① 上記のとおり本件ホールの床が通常有すべき安全性を欠いているとは認められず、国家賠償法2条1項にいう設置又は管理の瑕疵があったと認めることはできないから、区又は本件小学校の校長が、本件ホールの床の材質を変えるべき義務を負っていたとは認められない。

② また、本件ホールの床の材質を変更しなかったことと本件事故による原告の傷害結果の発生との間に因果
関係があると認めることもできない。

③ したがって、国家賠償法1条1項に基づく責任又は安全配慮義務違反による債務不履行責任は認められない。
本判決のポイント
瑕疵の有無の判断に当たっては、実際の使用態様を考慮したうえで床材等が当該場所にふさわしいものであったかが考慮されていること、過去に事故があったとしてもその事故が当該場所の通常の使用に伴って生じうる程度のものであれば安全性の欠如とはいえず、設備等の変更義務はないとしていること、事故が通常想定される行動によって生じたものではない場合には設備の問題と結果との間の因果関係は否定されるとしていることが参考になる。
事件番号・判例時報 平成22年(ワ)19510号
1971号133頁 
裁判年月日 平成23年9月13日 
事件名 損害賠償請求事件 
裁判所名・部 東京地裁 
判示 棄却 
原審事件番号  
原審裁判所名  
原審結果  
被害者 小学5年生 
天候等の状況  
ID:1883[mid:]