事故を防ぐための解説・提案

建築基準法にしたがって建てられた建物等であっても、現実に事故が発生することがあります。ここでは、過去の建物事故に関する裁判判例を基に、建物の所有者、設計者、施工者、管理者の法的責任等について解説しています。

具体の裁判判例にみる建物事故の法的責任
弁護士 佐藤貴美

<目次>
  1. 建築法令に適合した建物等であっても法的責任が生じるとされた事例
    • 建築基準法にしたがった設備等であっても、実際の用法に即して安全性に問題がある場合には法的責任が発生すること
  2. 利用者の属性によって安全性が判断される事例
    • 建物や設備の安全性は、どのような人がその建物を利用するのかによって内容が変わること
  3. 被害者側の予期せぬ行動により生じた事故
    • 被害者側の予期せぬ行動(通常想定される行動以外の行動)によって生じた事故の場合には、建物所有者等は責任を負わないこと

1.建築法令に適合した建物等であっても法的責任が生じるとされた事例

【ポイント】

建築基準法にしたがった設備等であっても、実際の用法に即して安全性に問題がある場合には法的責任が発生すること

【解説】

建物や建物に附属する設備などは、利用する人の安全を確保するものでなければなりません。そのような安全性の確保のために建物等を建築するにあたって守らなければならない法律に、建築基準法という法律があります。すべての建物は、この建築基準法にしたがって建てることが求められ、建築基準法に違反していなければ、基本的に違法ではないことになります。


しかし、そのような建築基準法にしたがって建てられた建物等であっても、現実に事故が発生することがあります。この場合、建物等を建てた側や建物を所有する人、建物を管理する人は、「建築基準法に則したものなのだから、安全性は保たれているのであり、事故に対し責任はない」と言い切ることはできるのでしょうか。


次のような裁判例があります(福岡高裁平成19年3月20日判決)。

被害者は、2階建てアパートの賃借人の妻です。このアパートの被害者が居住していた部屋には窓があり、物干し金具がその窓の外に取り付けてありました。この窓の腰高(床から窓の下までの高さ)は約73センチメートルで、手すりはついていません。この部屋の住人は、洗濯物を干す際には、窓から身を乗り出してその金具に物干し竿を渡し,その竿に干すこととなります。

被害者も、窓から乗り出して洗濯物を干していたところ、誤ってその窓から転落し、亡くなりました。そこで被害者の遺族の方が、アパートのオーナーに対し、転落した窓(以下「本件窓」といいます)に手すりがないことはその建物が本来持っていなければならない安全性を欠いている(※)として、損害賠償を請求しました。

※建物等が通常有すべき安全性を欠いていることを、「土地上の工作物に瑕疵がある」といい、この場合、民法717条の規定に基づき、建物等の所有者などは瑕疵と法律上一定のつながりがある(相当因果関係がある)と評価される損害を賠償すべき責任が生じます。所有者はその際に、自分には不注意はない(過失はない)と主張しても責任を否定することはできません(これを「無過失責任」といいます)。

ところがこの窓は、上記のとおり腰高は73センチメートルであり、建築基準法では、この場合には窓に手すりを設置する義務は課しておらず、したがって本件窓は、建築基準法に照らせば違法ではありませんでした。

裁判所も、この点について、「本件窓の腰高は(建築基準法の)基準の範囲内であるものということができるし,また,採光や通風,さらには居室の開放感等の見地からしても,窓の腰高を余り高くすることはできないし,相当でもないものといわなければならない。そうであれば,約73センチメートルという本件窓の腰高自体を瑕疵とみなすことはできない。本件窓の腰高は約73センチメートルあることから,それ自体は欠陥とはいえない」と述べ、本件窓に手すりがないこと自体は「欠陥ではない」としているところです。


しかし裁判所は、だからといって「安全性の欠如(=瑕疵)はなく、賠償責任は生じない」とはしませんでした。裁判所は続けて次のように述べます。

「本件窓を洗濯物を干すために利用しており,しかも,竿受け金具が錆び付いて伸縮できなくなっていたところから,身体を戸外に伸び出す姿勢を取ることになるので,「本件竿受けに設置した物干し竿に洗濯物を干すには一定程度の危険性があったことは否めないから,本件窓の外に手すり等を設置して,転落防止に備えるべきであったものである。」

すなわち裁判所は、安全性の欠如を検討するためには、単に建築基準法等の建築関連法令に違反しているかどうかということだけにとどまらず、その窓の実際の使われ方に即して、その使われ方に対し「安全」といえるかを考えるとしたのです。


そのうえで裁判所は、本件では、「本件窓に手すりや柵等が設置されていなかったことは,転落防止という観点からしてその安全性が十分なものでなかったということにならざるを得ない」として、本件窓の「通常有すべき安全性の欠如」=工作物の設置・保存の瑕疵があるとして、建物の所有者の責任を認めたところです(※)。

※ただし被害者にも不注意で落下したことに過失があり、双方の過失全体に占める被害者の過失が9割であるとして、請求した賠償額の1割のみが損害賠償として認められました。

このように、事故が発生したときの損害賠償の問題に関しては、建物や設備の安全性に関する法令に即しているということは当然の前提としつつも、実際の使われ方も踏まえて検討されることになります。

また、新築当時の法令や想定された利用状況に応じて建物や設備が設計施工されていたとしても、建物が老朽化して十分な機能が発揮できない状態になっていたり、現在の実際の利用状況に照らし問題が生じうると想定されるのであれば、「管理」の側面からしっかりと対応しなければなりません。これを放置して事故が発生した場合、法的責任をのがれることは難しいでしょう。

建物の瑕疵に基づく事故は、ときとして大きな被害につながることがあります。このような場合には、当該事故の発生に一定の関係があった者には、法的責任の有無別としても、社会的な責任が問われかねません。

建物の所有者や設計者・施工者などは、建築関連法規を遵守することは当然として、さらにその設備等の実際の使われ方を考慮する必要があります。例えば窓であれば、その窓が換気や採光、眺望のためのみに設置されるものなのか、人の出入りや身を乗り出す動作などを伴うものなのかによって、配慮すべき事情は大きく異なります。また、本件では、「窓」と「物干し用具」の2つが一定の関連性を持つことによって、安全性の欠如がもたらされました。このように、個々の設備等をそれぞれ一つの独立したものとして考察するのではなく、複数の設備等の相互の位置関係や機能的関連性なども総合的に踏まえて、安全性の確保に努めなければならないことに十分にご留意ください。

2.利用者の属性によって安全性が判断される事例

【ポイント】

建物や設備の安全性は、どのような人がその建物を利用するのかによって内容が変わること

【解説】

建物や建物に附属する設備などは、利用する人の安全を確保するものでなければなりません。しかし建物等は、例えばオフィスビルと、ショッピングセンター等の商業ビルなどを比較すれば明らかなように、その建物等の利用者は、建物等の用途によってさまざまです。

したがって、建物等の安全性が確保されているかどうかは、実際に建物や設備をどのような人が使用するのかを考慮して検討されなければなりません。


この点がよくわかる事例として、次のような裁判例があります(東京地裁昭和62年1月16日判決)。


ビルの三階にある居酒屋店舗で、二次会で仲間と飲食をしていた大学生(当時3年生)が、仲間と写真撮影の後、テーブルの方に向き直らずに後ろ向きのまま左足でテーブルをまたいで自分の席に帰ろうとしたところ、つまづいた瞬間に体のバランスを失ってよろめき、約40センチメートルの幅に開いていた窓から道路に転落して亡くなりました。

この被害者が転落した窓(以下本件窓といいます。)は、道路に面していて、床から約40センチメートルしかない腰壁に設置され、手すりなどの設備はなされておらず、本件窓は自由に開閉できる状態にあり、常にカーテンが閉めてありました。

そこで被害者の遺族の方が、居酒屋の経営者(建物の当該部分を賃借してその部分を独占して使用している者)に対し、窓を自由に開け閉めでき、かつ、カーテンなどで窓が開いているかどうか一見してはわからない状況にあったことは、建物等が通常備わっているべき安全性を欠いていること(瑕疵)に当たるとして、損害賠償を求めた事案です。

裁判所は、まずは事故があった店舗がどのような店であったか、その特性を検討します。すなわちこの店舗は居酒屋であり、深夜まで営業していることからすれば、被害者らのように二次会や三次会の場所として利用する客も多く、酩酊した客もいるであろうことは当然に予想されるとします。そして、本件窓のほかには、換気口は、調理場の換気扇と入口のドアしかなかったことから、店舗経営者は、本件窓を換気のために開ける酔客もありうることが予想できたとしました。

そのうえで、このような具体的な事情のもとで本件窓の安全性を検討すれば、座敷の上約40センチメートル(すなわち大人の膝の高さ)の位置に窓が開いていれば、注意力や反射速度、運動能力などが低下した酔った客が、何らかのはずみで転落する危険があるのであるから、本件窓に手すり等の転落防止措置がとられていないこの店舗は、建物等の設置や管理において安全性が欠けている(瑕疵がある)として、被害者の遺族の損害賠償請求を認めたところです。

※ただし、被害者にも、酒の影響による注意力、判断力、運動能力の低下が認められ、かつ、実際の行動も酔った客が普通に行うものと想定される傾向から大きく外れるものであったとして、被害者側にも5割の過失があるとしました)。

同様の判断を示す裁判例はほかにも多くあります。例えば高齢者がレストランの自動ドアを通過しようとした際、閉じてきた自動ドアに接触して転倒してけがをした事故に対し、レストランの経営者の土地工作物責任が肯定された事例(東京地裁平成13年12月27日判決)があります。


これは、あるレストランで食事をしようとした高齢者の客が、レストラン店舗の自動ドアを通過しようとしたところ、自動ドアが閉まり始め、右上半身と右腕がドアに当たって店舗の外側に転倒してしまい、左大腿骨頸部を骨折しました。この自動ドアには補助電光スイッチが取り付けられていなかったこと、停止時間の調節等をするなどの安全確保装置が講じられていなかったことから、けがをした高齢者が、自動ドアの設置や保存に瑕疵があったとして、けがの治療費や、治療中に仕事ができないことによって本来得るべき利益を得られなかった分(逸失利益)、ケガを負ったことなどによる精神的苦痛による慰謝料などを、損害賠償として請求した事件です。

これに対し、レストラン経営者は、事故のあった当時(平成7年4月当時)は補助電光スイッチを取り付けることは普及しておらず、また、自動ドアの停止時間も、「通常の歩行能力を有するものには支障がない」として、自動ドアの設置や保存には瑕疵がないと主張しました。


裁判所は、補助光電スイッチを取り付けていなかったことについては、レストラン経営者の主張を認め、事故当時このような措置を採ることは全国的に普及していなかったとして、瑕疵があったとは言えないとしました。しかし、自動ドアの性質や、設置された具体的状況、その利用状況を総合すれば、この自動ドアは、「身体ないし動作の制御能力及び歩行能力の劣る高齢者や幼児が利用することを前提として通常有すべき安全性を備えている必要があ」るとしました。具体的には、このような場合には補助光電スイッチに代わる安全措置として、十分な通行時間を確保する必要があるところ、本件ドアの通行時間は十分とは言えず、自動ドアを通行する者が接触する危険をはらんでいること、接触した場合には通行者を転倒させる危険があることなどを指摘して、本件ドアが通常有すべき、安全性を備えていたということができず、その設置又は保存に瑕疵があるとしました。

すなわち、この自動ドアは、高齢者や子供も利用するレストランのドアであることから、高齢者などにとっても「通常有すべき安全性」が求められるとされたのであり、まさに「どのような者が利用するのか」にも留意して、安全性が判断されることを示しているところです。


そもそもこれらの裁判例で問題とされている「工作物責任」では、建物などの所有者は無過失責任(所有者に注意義務違反がなくても客観的に瑕疵があり、その瑕疵に基づき損害が発生したのであれば責任をのがれえない)とされています(※)。

※これに対し、通常の事故などの場合に問題となる不法行為責任では、被害者側が加害者側の過失などを主張立証する必要があります。

これは、土地上の工作物そのものが一定の危険性を有しているのであり、所有者などが土地上の工作物を利用するのであれば、そのような危険から生じる結果に対し一定の責任を負わなければならないという考え方が背景にあると説明されることがあります(これを危険責任といいます)。この考え方に基づけば、建物が有する危険性の有無は、例えば通常のオフィスビルのように、通常利用する者がそのビルに所在する事務所などの社員に限られる場合と、商業ビルなどのように、様々な年齢層の客が想定される場合、さらには自らの客にお酒などを提供するような飲食店の場合などでは、異なることになるでしょう。

したがって建物の所有者や設計者・施工者などは、建物はもともと「一定の危険性がある」と評価されること、その危険性は建物の使われ方により異なりうること、そしてその危険が具体化しないよう、それぞれの建物や設備がどのような方々に利用されるかも念頭において安全性の確保を十分に検討のうえ、対応することが求められていることに、注意しなければなりません。

3.被害者側の予期せぬ行動により生じた事故

【ポイント】

被害者側の予期せぬ行動(通常想定される行動以外の行動)によって生じた事故の場合には、建物所有者等は責任を負わないこと

【解説】

建物内で事故が発生した場合、建物や設備に通常有すべき安全性が欠けていた場合(これを「瑕疵」といいます)には、建物等の所有者は法的責任が問われます。しかし、この瑕疵という概念については、画一的な基準があるわけではなく、具体の使われ方などに応じて判断がかわってきます。

したがって、通常のオフィスなどであれば「瑕疵」に該当しないと考えられるようなものであっても、例えば高齢者や幼児などが通常に出入りするような店舗などでは「瑕疵」とされるものもあります。さらに瑕疵が否定される「安全性」の基準は、これらの方が通常想定される行動をとることを前提に考えられるところであり、通常想定しえないような行動にまで100%の安全を確保すべきということにはなりません。実際の裁判例でも、被害者の行動が通常の予測を超えるような場合には、瑕疵の存在を否定し、建物の所有者の責任を否定しているものもあるところです。


この点がよくわかる事例として、次のような裁判例があります(東京地方裁判所昭和57年12月27日判決)。


これは、保養所の一階にある食堂(以下「本件食堂」という。)内にいた子供が、食堂のガラス戸を通して庭に父親が立っているのを認め、ガラス戸が開放されているものと信じてガラス戸に向かって走りより、そのまま激突して亡くなりました。この事故について、被害者の遺族の方が、建物所有者に対し、このようなガラス戸の設置管理に関しては、通常有すべき安全性を欠いているとして、工作物責任に基づき損害賠償を請求した事案です。


裁判所は、まず、建物の所有者などが責任を負うべき場合について、「工作物の占有者又は所有者は、およそ想像しうるあらゆる危険の発生を防止しうるベきことまで想定して危険防止の設備をする必要はなく、当該工作物の構造、用途、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮したうえ、具体的に通常予想される危険の発生を防止するに足るもので必要かつ十分であると言うべきであり、利用者の通常の用法に即しない行動の結果生じた事故については占有者又は所有者としての責任を負うべき理由はない。」としました。

そして、本件の事故については、まず事故があったガラス戸は、主に本件保養所の利用客に対し、食堂からの景観を楽しんでもらうために設置されたものであって、人が頻繁に出入するいわゆる通常の扉、ドアとしての機能をもつものとして設置されたものではないことと指摘します。また、その設置場所が食堂であることから、その近辺において児童や幼児が遊んだり、走り廻ったりすることは、通常予測されるものではないとしました。

そのうえで裁判所は、本件事故は、保養所の利用客が通常の使い方に反し、ガラス戸の南側にあった庭に降り立ったことをきっかけとし、被害者の子供が父親のもとに走り寄ろうと食堂内を勢いよくガラス戸に向かって走った結果、ガラス戸に衝突したものであって、言い換えれば「通常予測することができない要因が偶然に重なりあった結果起こったもの」であると結論づけ、「本件事故当時、事故の発生を防止するために、ガラス戸等にテープを貼り付けるなどして、人にガラスの存在を察知させる措置を講じていなかったとしても、ガラス戸等の設置又は保存に瑕疵があったということはできない。」として、被害者遺族の請求を認めなかったところです。



また、マンションの屋上からの転落事故につき工作物責任などが否定された事例(浦和地方裁判所昭和59年9月5日判決)もあります。


これは、マンションの住人の一人である当時15歳の女性が、深夜、友人2名とマンションの屋上に上り、下の階へ降りようとしていたとき、最上階にいたほかの住人の一人が、突然大きな声で「そこにいるのは誰だ」と怒鳴ったことから、その声に驚いて体のバランスを失い、屋上から転落して亡くなった事故です。

被害者遺族がマンションの所有者に対しては工作物責任に基づき、損害賠償を請求しました。


裁判所は、事故があった屋上の周囲には柵がなかったことを認めましたが、事故当時屋上の上り口にあたる最上階階段入口には柵状扉が設置されていたこと、屋上に通じる階段は屋上に置かれていた給水塔とエレベーター機械室の補修や点検のために業者が立入る場合にだけ利用することが想定されており、マンションの居住者や来訪者がその階段を利用して屋上へ上ることは禁止していたこと、さらに屋上に通じる階段室に入る扉も南京錠で施錠されていたことを指摘しました。また事故当時、エレベーター内の正面には、「お願い」と題し、ほかの注意事項とともに「尚、屋上には手すりがありませんので絶対にあがらないで下さい。きけんですから」と書いた注意書が貼付されていたことも指摘します。そして、本件事故の被害者がすでに15歳で、思慮分別のある本件マンションの居住者であることを述べたうえで、このような被害者が屋上に出るなどという無謀な行動にでることまで予測して柵を設置、保存すべきものとは認められないから、工作物の設置保存に瑕疵はなく、マンションの所有者には工作物責任に基づく損害賠償義務はないとしたところです。

一方被害者に対し大声で叱責した者についても、怒声を発したといっても、その声は被害者のすぐ間近からなされたというわけではないこと、怒声を聞いた人が驚いて屋上から転落するということは通常は予想されないこと、深夜、立入禁止であるはずの屋上にいる人に向かって「そこにいるのは誰だ」と叱責するのは、社会通念からいっても十分に認められる範囲内のものであることを指摘し、叱責した者には過失はなく、不法行為に基づく損害賠償義務はないとしたところです。


これらの裁判例が示すとおり、建物の所有者などは、およそ想像しうるあらゆる危険の発生を防止しうるベきことまで想定して危険防止の設備をする必要はなく、その構造、用途、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮したうえ、具体的に通常予想される危険の発生を防止するに足るもので必要かつ十分であって、利用者に通常想定される行動を前提に安全性を確保していれば、工作物責任も含め、法的責任は生じないことになります。

しかしその一方で、何がその建物や設備などにおいて「通常予想される危険」であり「通常想定される行動」であるのか、逆に言えば何が「予期せぬ危険」であり「予期せぬ行動」であるかは、一律の基準があるわけではなく、裁判例でも具体的な利用状況や被害者の属性などに応じて個別に判断されていることに注意する必要があるでしょう。


したがって、建物の設計者や施工者、管理者に当たっては、建築関連法規を遵守することは当然として、実際の使用のされ方や過去の事故情報などを踏まえ、適切な安全対策を検討し、実際に履行していくことが大切です。例えば立入禁止等の措置を講じる場合には、2番目の裁判例で述べられているように、実際に立入を困難にするような物理的な対策を講じるとともに、立入が禁止されていることを利用者がしっかりと認識できるような注意喚起の在り方もよく検討しておくことが大切です。

2018年3月