事故を防ぐための解説・提案

設計者の立場からみた小学校における安全計画の考えかた
株式会社日本設計 福田卓司

 平成21 年3 月に文部科学省より出された報告書「学校施設における事故防止の留意点について」の作成にあたり、筆者は学校施設安全対策部会に参加した。ここで整理された枠組みに沿って「小学校における安全計画の考えかた」について、概要を述べる。

 最初に「Ⅰ.各室」として学習関係諸室・廊下・階段、次に「Ⅱ.各部」について事故が発生しやすい開口部・仕上げ・家具・その他の分類を行い、安全対策の留意点について記載する。この上で「Ⅲ.利用段階にあたっての留意点」について述べる。

<目次>
  1. 各室における留意点
    • 1-1. 学習関係諸室    
    • 1-2. 廊下    
    • 1-3. 階段
  2. 各部における留意点(校舎)
    • 2-1. 開口部    
    • 2-2. 内部仕上げ    
    • 2-3. 学校用家具    
    • 2-4. その他
  3. 利用段階の留意点

1.各室における留意点

1-1. 学習関係諸室

 学校の中にはその性格上、危険性を内包している場所もあり、これについては施錠も含めた明確な管理が必要である。例として理科室の薬品庫、屋内運動場のキャットウォーク、屋上等があげられる。

 この中で理科教室や実験室等は、突発的な事故等により有害物質を浴びたり、衣服等に着火したりという危険性もある諸室である。日本の学校では事例が少ないが、被害を最小限にするために、緊急用シャワーや洗眼装置等の設置が望ましいと考える。

1-2. 廊下

 廊下は、児童生徒等が走ったりふざけたりすることに起因する事故が特に発生しやすい場所であることを認識し、必要な対策を講じることが重要である。

 直線状の長い廊下の突き当たりは、児童生徒等が走っている際、止まりきれずに衝突する事故が多く発生している。衝突防止に配慮するとともに、万が一事故が発生しても被害が最小限になるよう、緩衝材を設置する等の配慮が必要である。突き当りに開口部を設ける場合は、衝突防止のための手すりや格子などの防護柵、植栽などにより物理的に開口部に近づきにくくする等、配慮が必要である。

 特に、曲がり角や教室の出入口など、見通しが悪く出会いがしらの衝突事故が発生しやすい場所や、足元へ意識が向かうため正面に対する注意が行きにくくなる階段と廊下の接続部等は、見通しを確保し余裕をもったスペースの計画とすることが望ましい。

 また、小学校の廊下での転倒事故には、廊下が濡れていることに起因する事故が多い。小学校では手洗い・流し等は廊下に面して配置されることが多いが、通行部分が濡れることのないように、アルコーブ状にする等の配慮が必要である。

1-3. 階段

 階段は、一度バランスを崩せば容易に転落し、大事故につながりやすい場所である。また、通行の場であるため、他者を巻き込むおそれもある。段を明瞭に意識できるよう段鼻を目立たせたり、段の有無を誤解させたりしないように配慮することが重要である。

 外部階段や吹き抜け等に面した階段等、転落の恐れのある場所に設ける階段の側壁や手すり等については、建築基準法施行令において高さの規定はないものの、「バルコニー等に設ける柵」と同等若しくは、未を乗り出す等児童生徒等の多様な行動を踏まえ、それ以上の安全性を確保できる高さとすることが重要である。

2. 各部における留意点(校舎)

2-1. 開口部
(1) 共通事項(ガラス部分)

 ガラスが関わる事故は、発生率の高さにくわえ、重大事故に繋がる可能性が高いため、ガラスの使用に当たっては安全性に十分に配慮することが重要である。特に、教室や校舎の出入口や廊下・トイレ付近は、ふざけている最中のガラス事故が多く発生している。児童生徒等は他のことに夢中になっていると、注意力が弱まることを踏まえた計画上の配慮が必要である。通常のガラスよりも破損しにくく、破損しても破片が小粒で鋭利にならない強化ガラスや、破片が飛散しにくい合わせガラスを使用する等、使用場所及び使用目的に適したものを選択することが重要である。また、建具だけでなく作り付けの家具についても、必要に応じ安全ガラスを用いることが有効である。

 透明ガラスの面積が大きい場合は、錯覚して衝突することを避けるため、ガラスが認識できるよう、シールや格子などを目の高さに目立つように設けることが重要である。外部等明るい場所に面した開口部や、内部と外部の床仕上げが類似している場合の境界に設けるガラスは視認性が低くなるため、特に配慮が必要である。

 ガラスへの衝突防止のため、使用場所に応じ手すりや格子・フェンスなどを設置し、物理的に防護することが重要である。机や可動式の家具等が衝突して、ガラスが破損することの無いよう、腰壁の高さを適切に設定したり、物理的に衝突しないように工夫したりすることが必要である。

 屋外に面したガラスのうち、破損したときに破片が下を通行している児童生徒等に落下する可能性がある場所については、合わせガラスの使用等、飛散防止に留意することが必要である。室内の高所にガラスを使用する場合も同様である。また、既存の学校においては、板ガラスの破片の飛散を防止する飛散防止フィルムを、専門家のアドバイスを受けながら使用すること等も有効である。


(2) 共通事項(その他)

 引き違い戸や引き違い窓における挟まれ事故を防止するため、扉と枠の間には衝撃吸収ゴム等を設置することが有効である。

 引き違い戸や引き違い窓では、戸を開ける際に、引き手部分が戸袋に引き込まれて指が挟まれる事故を防止するため、ストッパーを設置し引き残しを確保する。また、戸の引き込み部分や、建具間の挟まれ事故についても配慮が必要である。


(3)窓

 転落のおそれのある窓に設ける手すりについては、建築基準法施行令において定められている、「バルコニー等に設ける柵」と同等もしくは、児童生徒等の多様な行動を踏まえ、それ以上の安全性を確保可能な位置に設けることが重要である。

 建築基準法施行令126条では「屋上広場又は2階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが1.1 メートル以上の手すり壁、さく又は金網を設けなければならない。」とされている。

 開閉方式の検討では、児童生徒等が転落しないように、例えば引違い窓において、開口幅を制限できる開口制限ストッパーを設置することも有効である。回転窓やすべり出し窓を設ける際は、開口幅を制限する等転落事故防止に配慮するとともに、開放した際に動線をふさぎ衝突の原因とならないよう配慮することが重要である。

 窓下には書棚やロッカー等、足掛りとなるものを設置しないよう配慮が必要である。事故防止のために設置した手すりに乗っているときに事故にあう等、新たな危険場所となる場合もあるため、手すりの設置に当たっては、改修する部分だけでなく、開口部全体について配慮する。


(4) 天窓

 児童生徒等の近づく可能性のある場所に設置された天窓は、天窓の構造や設置状況等を把握した上で、周囲に防護柵を設置することや内側に落下防護ネットを設置すること等、安全な構造とすることが重要である。また、天窓の周辺に植栽を配置する等、天窓に近づきにくい状況を作ることも有効である。

 通常児童生徒等が近づく可能性の低い場所に設置された天窓についても、児童生徒等多様な行動を踏まえ、適切な安全対策を講じることが重要である。

 天窓に用いられる素材の一つであるアクリルやポリカーボネート等合成樹脂は、気候的な条件や経年に対し性能が劣化することを踏まえ、採用を検討することが重要である。


(5)出入口

 出入口付近は見通しが悪いため、衝突事故が起こりやすい。衝突のはずみで転倒した際、扉や柱の角等に衝突する事故を防ぐため、面取り処理やカバーの設置等の配慮をすることが重要である。なお、扉と枠の間に緩衝用のゴム等を設置することは、指の挟まれ等の防止にも有効である。

 屋外への出入口を開き戸とする場合は、強風時、扉の急な閉鎖による挟まれ事故やガラスの破損を防止するため、必要に応じて風除室を設けることも有効である。


2-2. 内部仕上げ
(1)床

 床には、適度の強度と弾力性をもち、十分な耐久性のある材質のものを使用する。特に、運動を行う空間の床は、不陸や表面の荒れなどを生じにくい材質のものを使用することが重要である。

 足元にある突起物は、気づきにくく転倒の原因となるため設けない。特に出入口付近や近道となる動線の途中にあると、足元への注意がおろそかになりやすいため、配慮する。

 転倒事故防止のため、平たん部とスロープの境目は、床仕上げを変えることで分かりやすくすることが重要である。併せて、手すりの形状も床勾配に合わせると、スロープの位置が判別しやすくなり有効である。

 床は濡れにくい計画とするとともに、滑りやすい材質のものの使用を避けることが重要である。特に、水を使用する部分及び雨等が持ち込まれる部分の内装には、一層配慮が必要である。


(2)階段

 踏み面の色を均一にしたり、段鼻(階段の先端)が判別しにくいデザインにしたりすると、下りるときに足を踏み外して転げ落ちる可能性があるため注意が必要である。数センチの段差や一段のみの段差は、床面の色や仕上げが似ていると段差が分からず、転倒の原因になるため、設けないことが望ましい。





(3)壁・柱

 柱は、衝突時の被害を最小限とするため、面取り処理やカバーの設置等の配慮をすることが重要である。

 特に運動を行う空間の壁は、衝突事故防止のため、危険な突起等のない形状とすることが重要である。柱はアリーナに出ないように計画するか、必要に応じ緩衝材を設ける工夫等が有効である。

 壁面に掛け具等の突起物を設ける場合には、衝突時の被害を最小限とするため、覆いをしたり、予め壁面に窪みを作りその部分に突起物を設けたりするなど、危機防止に留意して設計することが重要である。


2-3. 学校用家具

 本棚やロッカー等家具の角や側面に衝突した時、被害を最小限とするため、面取り処理やカバーの設置等の配慮をすることが重要である。ガラスが使用されている場合は、安全ガラスとすることが望ましい。また学校用家具には、取手やつまみなどの突起物を極力設けないデザインとすることが有効である。

 家具や棚、その他の重量物は児童生徒等の衝突により転倒や落下等しないようにすることが重要である。また家具は積み重ねないことを原則とし、特に高さがある家具は転倒防止のため、必要に応じ、配置予定部分に確実に固定するための措置を講ずる必要がある。


2-4.その他
(1)庇(ひさし)

 庇を設置する際は、屋内から容易に立入りが出来ないように設計することが重要である。設置高さは、床面と同程度の高さにしないことが重要である。また、庇の材質や大きさ等についても、安全だと勘違いしないように設定することが有効である。






(2)屋上

 小学校においては、学習の一環として屋上の利用があることを前提とした計画が望ましい。行われる活動内容・活動形態を踏まえつつ、児童生徒等の多様な行動に対し、十分な安全性を有する手すり、防護フェンス等を設けることが重要である。特に、屋上を体育活動に利用する時は、行われる活動内容・活動形態に応じ、必要な防球ネット・保護ネット・柵等を設けることが重要である。


(3)バルコニー等

 バルコニー・階段・吹抜け・外廊下等の手すりについては、十分な安全性を有するものとし、その下に足掛りとなるものを設置しないことが重要である。

 下部を通行している児童生徒等に落下物による事故を防止するため、手すりの天端や笠木は適切に勾配を設けるなど、上部に物が置けない形状とする。


(4)その他

 通常は立ち入ることのない、メンテナンス時等に使用するスペースや、天井裏等は安全対策が十分でないことが多い。児童生徒等が立ち入ることが無いよう、施錠管理が重要である。運動を行う室・空間の照明設備は、ボール等の衝突に対する破損防止措置を行うことが重要である。

 渡り廊下や駐輪場の屋根等は、容易に上ることができるような足がかりを設けないことが重要である。併せて、気候的な条件や経年に対する性能劣化にも配慮する必要がある。遊具等可動部を持つものについては、定期的な点検や修理の記録を管理し、部材の交換時期を判断することが望ましい。また、それらを誰にでもわかるように表示することが有効である(自動車の車検表示など参考にすべきと考える)。

3. 利用段階の留意点

 利用段階における安全の確保において、学校設置者の役割は大きく、安全点検の結果を踏まえた施設の改善では中心的な役割を果たす。加えて、教職員では判断が難しい点検箇所については、設置者が主体となって、あるいは設計者や技術者等の専門家を活用しながら、必要に応じ安全点検を行う必要がある。

 特に公立学校の場合、教職員の異動があるため、設計意図、点検結果、補修・改修履歴等の学校施設の安全管理に関する情報が必ずしも円滑に伝達されていっていないのが実情だと考える。学校施設の学校環境を学習及び生活の場として安全に維持するためには、設置者及び教職員が専門家の協力を得る等して、これらの情報を文書等により継続的かつ確実に共有することが重要である。

 また、経年劣化の進行等により安全性が低下している場合は、速やかに補修等適切な対応を行うなど、継続的な改善を協力して図っていくことが重要である。